No.46 神奈川県平塚市「老郷(ラオシャン)」の酢湯麵は<老荘><禅>の境地を味わえるラーメンなのである。

 師走の慌ただしいなか、老境に入りつつある我々は、ほろ酔いで次の平塚随一のソウルフードと言われる「老郷(ラオシャン)本店」に向かったのであった。湯麵が余り好みではない私は、前回(No.45)の「どさん娘紅谷町」の味噌ラーメンで〆て帰りたいと不埒な本心を持っていたのだが、この湯麵を食わずに日本ソウルフード評論家を名乗れないよ、の外野の声?が耳元で囁かれ、S氏の案内のもと、また後ろを亀歩きでトボトボとついてゆくのであった。
 この「老郷」50年以上この平塚で「酢湯麵」を市民に提供しており、市民にとって無くなってしまったら平塚の魅力が半減すると言われるほど現在では平塚の郷土料理化している代物なのだそうだ。故に私は「どさん娘」の味噌ラーメンを我慢してまで、上等じゃないか「どんな湯麵か食わせていただこうじゃないかと」と梅割り酒で緩んだ身体に新たな活を入れ店に向かったのである。店はちょうど「どさん娘」とは反対側の西口方面で平塚の街を眺めながら足を進めたのだが、この街、やけに焼肉屋が多いのである。やはり近くに大きな肉市場でもあるのか、S氏に言うところによると、あの「牛角」(大衆焼肉チェーン店)でさえ他店と違って肉の質が良いらしい(ホントか?)。
 もとい、肉の話は前回で終わったのである。今回は「湯麵」なのである。
 S氏の名ガイドで店の前に到着。昔はもっと汚い店だったが数年前にリニューアルしたそうだが店構えは何の変哲のない「中華屋」さんである。扉を引いて店内に、右手すぐに食券機。財布を出して眺めると、タンメン(1~7人前・1人前650円)上段、その下に餃子(1から7人前・450円)、空白があり一番下におみあげ(1箱~7箱・1箱1,100円)と随分あっさりとしたメニュー。というか「湯麵」勝負の店なのである。これは期待が持てそうだと、当然選択肢がないのだからタンメン2人前(1,300円)、餃子2前(900円)の食券をゲット。店内長いカウンターが10席、奥に二人掛け卓子(テーブル)一つ。先客はカウンターに4人。奥の卓子に腰をかけ、三代目のお母さんか?店を仕切っている気配のおばあちゃんに食券を渡す。テーブルの上には辣油と酢が泰然と置かれている。
 まずは餃子が到着。S氏がすかさず「ビール飲みたいよね」と一言。私も肯くが、この店にそんな不道徳なものは置かないのである。初代からの教えを一途に守っているらしい。偉そうだがそれで良し。餃子口に入れる。良い塩梅である。ちゃんとした職人の餃子である。皮肉だがビールにメチャ合いそうな一品。
 数分してお目当ての「酢湯麵」登場。ネットではその姿を見ていたが実物を目の前にするとまた感動的な佇まいである。にゅ―麺に大量のワカメが乗っかっていると形容したら一番あたっているのか。

 まずはレンゲで微かに褐色だがほとんど透明なスープを飲んでみる。仄かに酢の香りがし淡泊な塩味かなと思ったが、そんなことはない、ちゃんとしたインパクトがあるスープである。これは初体験の味。思わず<いいね>と心で呟いてしまった。しかし、このスープ出汁は何が入っているのか皆目検討がつかない。<あっさりだがあっさりでない>、<コクがないようでコクがある>。老荘や禅の境地のような(形容し過ぎか)スープなのである。麺は加水を加えてない中細のストレート麺で柔らかいがまたそれがそのスープには良い。大量のワカメ(三陸産)はオジサンのような糖尿の血糖値対策にはグンバツである。一代目は「子供にも安心して食べられるものしか出さない」がモットーだったらしいが申し訳ないが大人のラーメンである。それも世の中を知り過ぎた人のラーメンなのである。味変に卓上の辣油とお酢を大量に加えると(私は両方とも大好きなので)、また滅法結構が良い味になるのである。酢の味もミツカン酢ではないなと思いきや銀座の老舗で使用している高級酢なのだそうだ。
 このラーメンは初代が中国北部に出征し、現地の人の食習慣から考案したものだそうで、そう言えば、大陸の中国人が麺屋で、長箸を使って食べていそうなラーメンのような気もする。しかし、このラーメンは平塚以外では絶対お目にかかれないような代物である。何故か、そんじょそこらの料理人がマネしても、これ絶対に出来ないだろうと思われるからである。スープまで飲み干し、一期一会、素晴らしい味の出会いに本日ほど感動した時はなかったのである。帰りにおみあげ(1箱)まで買うと、お母さんが親切にワカメは水につけて解してねと一言。
 因みに駅から20分ほどの場所に「花水ラオシャン」という店があり、そこでも「酢湯麵」が食べられ人気を二分しているらしいが、「老郷」とは何の関係もないらしい。憶測だが、「老郷」で働いていた人間が味を盗み勝手に営業してしまったのではないか、そうとしか考えられないのである。でも「花水」も食べにいかなきゃ。皆さん味噌ラーメンが食べられない理由がお分かりいただけたでしょ。

ご挨拶
 今年も終わろうとしております。今年度中は「十郎の日本全国ソウルフードの旅」のブログを読んでいただきありがとうございました。来年も糖尿と脊椎管狭窄症と闘いながら様々なソウルフードを紹介していく所存です。来年もよろしくお願いいたします。(2021年12月31日8:00)

老郷 本店(ラオシャン)
ラーメン、餃子
住所:神奈川県平塚市紅谷町17-23
交通手段    
JR東海道本線 平塚駅 西口より徒歩2分
平塚駅から268m
営業時間
火~土 11:30~23:00
日・祝 11:30~22:00
定休日:月曜日
お問い合わせ:0463-21-3658
予約不可

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