No.54 東京都杉並区高円寺北「ニューバーグ」のハンバーグが年齢層に関係なく愛され続ける理由。

　日本のお子ちゃまが一番好きな食べ物No.１は現在でも断トツにハンバーグだろう。60歳代の私の子供の頃も、そうだったように思う。私の母親などはこれさえ食わせておけば文句を言わないだろうと、私を侮り、高校生の頃の弁当は常に玉子焼きとレトルトハンバーグという芸の無さだったのを記憶している。余りの連続性に私は反旗を翻して、弁当を持って行くのを止めてしまったが、変わり買った菓子パンがハンバーガーだったという落ちもついたのだった。
　そんな、現在では日本のソウルフードと言ってもよいハンバーグだが、本日ご紹介する「ニューバーグ」のハンバーグは、日本の鉄板ハンバーグの先駆け的な店で、高円寺で50年以上営み、現在では、高円寺のソウルフードとまで言われているのである。
　実は私も大学生の頃中野区野方に住んでいて、高円寺に住む友達の下宿に行くたびごとに、必ず、この「ニューバーグ」のハンバーグを食べていた記憶があり大変懐かしい味でもある。ただ私の食べていたのは、本店ではなく北口の右方向の支店だったように思う（名前も違って現在はない）。
　あれから40年近くたち、もうここのハンバーグのことは忘れていたのだが、偶々最近、何かの記事で「ニューバーグ」がまだ健在だということを知り、あの頃のことを思い出すと同時に、何だか無性に食べたくり、腰を上げて高円寺へ向かったのであった。
　久しぶりに高円寺訪問。40年前、ここと江古田でどれだけ酒を飲んだことやら、今でも不思議なのは飲み逃げしたとは思えないのに、お金もないのによく朝まで酔い明かすことができものである。
　それから数年ごと高円寺は訪れているが、他の街に比べるといくぶん変化が少ないように感じる。しかし40年前に比べれば、当然細部変化は激しいかっただろう。
　さて、北口を左へ、信号を渡り右へゆけば純情商店街、左はパル商店街。真っすぐゆくと高円寺仲通り商店街という細い路地風の商店街が長く続く。私が良く飲んだ通りもこの商店街で沖縄料理を初めて食べた「抱瓶（だちびん）」はまだ健在で、その通りの路地を少し入ったところに私の好きな中島みゆきを聴かせてくれた怪しげな小さな居酒屋風スナックは当然のごとく消えていた。
　「ニューバーグ」は商店街を入るとすぐ左側で、間口が狭い小体（こてい）な建物。開店早々11時に入店。左にチケット販売機。奥に曲なりにカウンター10席ほどの店。先客は3人ほどで、スタンダードハンバーグ（デミグラスソース）＜530円＞と連れはメキシカンハンバーグ（辛口）＜560円＞を注文。トッピングは直に現金を出して注文ということ、カウンターに座り、サラダ2つ＜100円×２＞と私はスパゲッティ追加＜50円＞を注文。

　しばし待つ。先にサラダが目の前に。キャベツにドレッシングが掛かっているだけのサラダなのだがちゃんとした量で食べごたえあり、ドレッシングも塩梅が良い。５分後にメインのハンバーグが到着。鉄板の上にはスパゲティーの上にデミソースに包まれた小ぶりなハンバーグ、その上に目玉焼きと申し訳程度の人参と青豆とコーンが添えてある。私にとってハンバーグとは、まず鉄板に載せてあることと、その上に目玉焼きが添えてなければならないのである（なければ単品で注文）。その鉄則に則った素晴らしい形である。まず平皿のライスに目玉焼きを載せ、半熟なら黄身を崩す。そしてその上に醤油を少々垂らす（だから調味量の不在な店はそれだけマイナス評価。ここは塩とソースと醤油の調味料がセットしてある、さすが昭和の店分かっている）。ハンバーグは懐かしい絶対肉汁など出ないミンチハンバーグ（この安っぽさが逆に抵抗なく受け入れられ、懐かしい）。最近は確かにハンバーグも様々進化しているが、昭和生まれの私にはこのぐらい止まりで良いのである。メキシカンソースも想像とも少しも違（たが）わぬ辛口のトマトソース。今の若者はこのソース知らないのでは？。
　夢中に食べているといつの間にか10席ほどのカウンターは満席である。客層を見ると、私と同年齢かそれ以上が3分２ほどで、他の1割は若年層。今時こんな幅広い客層の店があるだろうか。このハンバーグ良い意味での親しみ安い、昭和の黄昏の味がするハンバーグであり、若年層には新しい味なのかもしれない。コスパも良すぎの昭和の大衆ハンバーグここに健在なのである。50年以上愛され続けているのも、むべなるかな、ただもう少し鉄板がジュージュー唸っていると最高なのだが、客回転が大事なのだからそんな暇ないわな。糖尿でなければ、もう一つハンバーグを注文して、ライスは大盛にしたのだが残念無念と店を出たのであった。