No.77 埼玉県さいたま市の「浦和競馬場」で「黄色いカレーライス」を食べながら鉄火場のソウルフードについて真摯に考察する(シリーズ鉄火場のソウルフード①)。

 流行り病でこの数年、劇場やホール等の芸術芸能場と同様に、ギャンブル場は場外の投票場を含め、入場が出来ず大打撃を受けたのではないかと思いきや、何と自宅で気軽に投票が出来るネット投票者が大幅に増え、売り上げはそれほど落ちなかったらしい。私もネットで買うようになり、逆に態々(わざわざ)ギャンブル場に足を運ぶことがなくなり、それはそれで便利にはなったのだが、やはり買わなくていい、いや以前は買えなかったレースにさえ銭を投入してしまい痛い目に合うことがしばしばあり、どちらが良いのか判断に苦しむところである。そんなことを考えながら、外を眺めると、流行り病も終息に向かいつつあり、巷では春を楽しむ浮かれ気分が蔓延し、どこの行楽地も芋洗い状態なのを目にするようになってきた。そんな中、瞑想(迷走か)中の私も、少し春の陽を身体に浴びてリフレッシュをと思い、重い腰を上げたのである。行先は17年ぐらいご無沙汰の競馬場、それも、草競馬と蔑称される地方競馬場の一つ浦和競馬場。浦和競馬場は南関東4競馬場(船橋、大井、川崎)のグループに入る競馬場で、その中でも一番、THA草競馬という雰囲気を醸し出し、また失礼だが一番萎びた感がある競馬場なのだが、それ故、逆にここに辿り着いてくるギャンブラーは<ほんまもん>で、どこか凄みがあると感じるのは私だけであろうか。

 自宅のもよりの駅(鶯谷)から京浜東北線に乗り南浦和駅下車、歩いて数分の所にある競馬場行の無料バスに乗り3分ほど競馬場前に到着。17年振りの浦和競馬場入口付近はそれほど変化なし、しかし、本日は3歳牝馬による桜花賞(SI)が開催されるとあって、多くの人で賑わっている。春といっても、まだまだ肌寒さを感じるので、やはりここは指定席を買って心地良く観るのが一番、入口で2スタンド2階の指定席券(2,000円)をゲットして、場内へ。入るとすぐ右方向に小さなパドックがあるのがこの競馬場の特徴で、左には飲食店街あったのだが、昔あったラーメン屋とカレー屋はなく、案内所になっている。前方を見ると、以前にはなかった小綺麗なスタンド(2号スタンド)が建っている。そして、どことなく以前のうらびれる感が消滅している。以前は古びたスタンドの下にあった数軒の飲食店は、現在跡形もない。左に行くと広場に予想屋のブースが並び、そしてフードコートといわれる場所ある。この光景は以前とは変わらない様な気がする。そして奥に1号スタンドがあり、以前は小金がある時はその上階の指定の観覧席か、ない時は風晒しの1階の自由席で震えながら見たものである(何故か浦和は冬が多かった)。
 かつての様々な記憶も蘇ってくる。人気薄の逃げ馬(高橋哲騎乗)と3番人気追い込み馬(繁田騎乗)に馬単1万円を投入(ぶちこみ)、8,200円の配当がつき、逃げるように競馬場を退散したこと。
食堂で、煮込みとビールを飲んでいると、力士時代の貴闘力(博打好きで有名-ほとんど病気)が浴衣姿で店に現れ、私の隣に席を取り、焼き鳥を50本とカレーライスを注文して、あっという間に平らげて出ていったこと。
 浦和で落馬して命を落とした(かつて浦和競馬場の3コーナーは死の曲線と言われた-現在は相当改善されている)2人の松井達也騎手(浦和)といぶし銀でしぶとい騎乗をする佐藤隆騎手(船橋)の落馬事故を目の当たりにしたこと、特に佐藤隆騎手の死は彼に相当勝たせてもらい感謝に堪えなかったと同時に悲しかったものである。そんなことを思い出しながら2階の指定席で新聞を眺めながら1Rの予想をする。1Rは和田と岡村の2頭軸にして3点流しの馬券を買うが、撃沈。

 おーっと実は私、本日は競馬が目的で浦和に来たわけでなく、鉄火場のソウルフードの紹介記事を書くためなのだということに気づきながらも、やめられないとまらないかっぱえびせん状態で5Rまで続けてしまうのであった。それも全てかすりもせず。これではいかんと、本日の最初の目的地、「里美食堂」を探す。ここの「黄色いカレー」が浦和競馬場で一番有名なフードであることは、ここを訪れた人は皆ご存じのはずである。というか、最近では滅多にお目にかからない色のカレーなので、一瞬ひるんでしまうという代物ある。食べなくても、見ただけで目に焼き付くため、それが浦和の象徴的なフードと言われるようになった所以なのではないか。実は、私は後述の<十郎スペシャル>を常に食べ、このカレーをまだ食べたことがなかったのである。いつも食べている人の姿を眺めながら、物好きもいるものだと内心冷ややかな目で、このカレーを眺めていた。
 しかし、さすがにこれを紹介せずに、浦和競馬場の鉄火場飯は語れないだろうと思い、清水の舞台から飛び降りる覚悟で浦和競馬場まで来たのである(嘘です)。以前は先述の古びたスタンドの下に店を構えていたと記憶していたのが、それがないとなると、「里美食堂」はどこへ行ってしまったかと案内板を見ると、ありました、ありました。我が2号スタンドの1階にあるではないか「黄色いカレー」が、と私は階段を降りるのだった。お店はセルフスタイルで、立ち食い形式に変わり、以前は観光地の食堂的雰囲気で深い味わいがあった店だったように思ったが、何だが整然としまいツマラナクなったような。しかし、これも世の常だと、カレーの並(600円)とオジサンに伝えると、お母さんが調理をし、数分で、目の前に「黄色いカレー」が現れる。福神漬けをのせ、窓際のテーブルに運び、まずは俯瞰してまざまざと眺める。記憶違いか、昔はもっと黄色かったようにも感じるが、きっと錯覚で、変わっていないのだろう。カレーの具材は玉ねぎと大きな人参、マッシュルーム。さて実食と口に頬張る。ん~カレーなのだが、スパイシーさはほとんどないが、ショウガの香りがほのかにする。カレーシチューが乗っかっているという感じ。学校給食のカレー汁をもっと薄味にしたような、と形容したほうがピッタリするかもしれない。この「里美食堂」は浦和競馬場開場当時からあるというので70年の歴史はあるらしいが、その当時からカレーの味を変えてないのではと思う。そうきっと戦後のすぐの頃はこんなカレーを食べていたのだろうと想像できる。そうすると、この味でも納得がゆくのである。こういうカレーは味変しなければと七味とウスターソースを掛ける。ウスターソースとは非常に相性が良い、ということで、この食レポを終わらせていただく。
 結論は浦和競馬場にピッタリのカレーだと言っておこう。そして、ひよっとすると案外癖になる味なのかもしれな…、とだけ。ただ、ここは旨いものを食べにくる場所ではなく、鉄火場なのだから、食事に夢中になるようなフードを置いてはダメなのである。さて腹を満たしたので、また2階の指定席に戻り、しばし観戦勝負するも8Rまで的中せず。あきらめてスタンドの外へ。焼き鳥や揚げ物やラーメン、蕎麦などが揃う飲食店が6件ほど並ぶ浦和競馬場一のフードスペースに向かう。ここでのお目当ては揚げ物である。この競馬場は揚げ物が旨いと評判で、お酒と揚げ物で、勝っている人もタコ状態の人も、しばしの休息を取ると良い。特に後者は気持ちの入れ替えをするためにも、ここでの気晴らしをお勧めする。ここには、私が私のためだけに名付けた<十郎スペシャル>があるのでご紹介したい。生ビールにキュウリ1本ママ(100円)とチキンカツ(250円)のセットである。キュウリ1本ママは、まさに浦和競馬場ならではの一品。初めて浦和競馬場訪問時、このキュウリの1本ママを見た時は何だが<ダ>埼玉県に来たなと感じたものである。隣の畑からとってきて、すぐ浅漬けにして持ってきたような代物。そんな土地柄感が微笑ましかったのである。そして、これぞ草競馬なんだよなーと感心したものである。そしてチキンカツは、表面がガッチリと揚がり、中はジューシーで、またサイズがビックでコスパが非常に良いのである。ぜひとも、このセットをお試しになって欲しい。因みに当たり前だが、<十郎スペシャル>と注文しても何の反応もないので悪しからず、それは私が有名にでもなったら、万が一認識されるかもしれませんのでもう少しお待ち下さい(ないない)。しかし、こう言ったエンターテインメント?(悪所)空間は面白いもので、何でも美味しく見えるものである。見えるだけではなく、実際それほど旨いものでもないのだが、何故だか旨く感じてしまうから不思議である。
 本日は、桜花賞なのだが東京で打ち合わせがあるため残念だが9Rまでにして、早々に競馬場を後にしたのであった。競馬をやらない人もフードコートとして競馬場を利用するのもよいのではないだろうか。
 本日の収支は、10,000円の負け、食事代を含め12,000円。あじゃーこりゃアカン。

浦和競馬場

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