No.50 東京都板橋区仲宿の「そば谷」は東十条の名店を継承し、新たに復活。さてどんな種が地域周辺のソウルフードになるのやら。

 かつて東十条の駅前に「そば谷」という、地域周辺住民、立ち食い蕎麦ファンなら知らない人はいない名店の誉れ高い立ち食い蕎麦屋があった。長年、安くて美味しいそば・うどんを提供し、その中でも「むじなそば・うどん」(たぬきときつねが乗っかっている、だまし合いとも言うが両ネーミングとも粋ですね)が有名で、これこそ地域住民のソウルフードとも言われていた。その「そば谷」が創業45年で惜しまれつつ幕を閉じたのが2014年2月(店主の年齢と後継がいなかったという理由)。これで「そば谷」の味も記憶に残るだけという寂しい現実に直面してしまったのだが、ところがどっこい、やはりいるのです救世主が。
 何と長年、十条で生まれ、小さい頃より「そば谷」のそは、うどんを食べて育った二人(オーナーと店主)の青年が「そば谷」復活に立ち上がり、2020年2月に仲宿にその夢を果たしたのである。そして、彼等はただ引き継ぐだけではなく、そこに新たアイデアを注ぎ込み、まさに「不易流行」(No.49参照)という言葉にぴったりの店を作りあげたのである。
 まず出汁は旧「そば谷」を引き継ぎ国産厚保削り「宗田かつお節」「鯖節」をふんだんに使用し深味とパンチを出し、麺も旧を引き継ぎ「興和物産」の茹で麺を使用。そして、一番利益率が良い種だが、これは何と今や東京随一の立ち食い蕎麦屋になりつつあるNo.24荒川区東日暮里「一由そば」にインスパイアされたのか、ジャンボゲソ、紅ショウガ天を代表に、様々なものを提供しているである。さすが、立ち食い蕎麦好きのオーナーと店主の目の付けどころは只者でない。私が訪問した時も、国道17号線という商売に決して向いてない場所なのに、店は大繁盛、お客さん出入りが引っ切り無しにであった。店は新しいということを加味しても、清潔感そのもの。もう少し猥雑さがあるほうが立ち食いそば屋感があって良いように思うが(ほんとうに極私的感想です)、何を言っているのかおバカさんである。本日はオーナーと女性(オーナーの奥様か?)が切り盛りしている。カウンターで女性に連れの「いか天ゆで卵入りそば」と私は「極太うどん(こんなのもあります)にジャンボゲソ天と山菜入り」を注文し会計。待つこと前者は2分で後者は太うどんなので5分かかり出来。汁は六文系(一由他)よりもおとなしくあっさりしている(連れはこれでショッパイという―肉体労働者ではないからな)。連れのを摘まみ食いした麺(そば)は(6<そば>:4<小麦粉>)くらいの中細麺。天種を含め上等である。最近は変な偽立ち食い蕎麦屋が増えているが(JR系の「いろり庵きらく」を代表とした立ち食い蕎麦屋―店は表面旨そうな装いだがあんなマズイ店もない)、それに比べれば10倍すばらしい。ただ一言、「げそ天(ジャンボ)」は「一由」の方が優れているように思う。「一由」の「ゲソ天」は硬くバリバリの衣がオツなのである。あのバリバリ感を汁に溶かして食べるそばが結構なお味なのである。「そば谷」のゲソ天は普通に美味しいゲソ天に仕上がっているのが惜しいのである。汁も品が良く仕上がっているが、「一由」のようなダイナミックな汁でないのが惜しいのである。立ち食いそばの<通(ツウ)>には分かるのだが、そうでない人には中々理解できないないであろう。例えて言えば、もんじゃ焼きの美味しさを理解できないのに似ているような…(理由になってないかな)。でもそんなことを無視しても、この店数十年後には板橋を代表する飲食店になるであろうし、今ももうなりつつある。ただ「一由」を真似て天種が多くなったために、旧「そば谷」時代のソウルフードとしての一品「むじなそば」の影が薄くなってしまい、これへの位置づけをどうするかが問題のような…。
 最後に、「そば谷」を駒込「一〇そば」に続く、<一由系>立ち食い蕎麦屋と命名していいのだろうか。オジサンは十分そうだと思うが…。いや二人は<そば谷>系というだろうが…。

そば谷
住所:東京都板橋区仲宿53-1
電話番号:03-5944-1289
営業時間:
月曜日~土曜日
5:00~9:00
11:00~20:00
※通常は22迄
定休日:日曜日
公式ホームページ
https://sobatani.com/