地方の無人駅はともかく、駅ほど変化の激しい空間はないように感じる。
特に都市部はさらにそれが増すように思う。駅の改築でガラリと空間が変化するものや、そのものの構造は変わらないが、中にあるテナントが様変わりするもの、特にテナントは10年も続けば老舗中の老舗のような顔をしているのが駅の姿のような気がする。
まあ、時代の変化と人の流れは密接に繋がっており、変化とともに人の流れの坩堝(るつぼ)にある駅が外面・内面的にも変化の波が激しくなるのは道理だろう。
そんな中、本日紹介する「西新井ラーメン」は、52年間、見た目何の変化もなく(当然ちいさな変化はあっただろうが)、東武伊勢崎線西新井駅の下りホームで細々と営業している立ち食いラーメン屋で、これは、もうここまでくると、「サザエさん」や「笑点」のように、もうすぐ古典の域に入りそうな雰囲気なのである。オジサンかつて幼き頃、この駅お隣の竹ノ塚近くに住んでいており、銀座や上野、北千住方面から帰ってくる時は、この駅に降り立って(大師線<西新井大師>があるので準急が止まった)、この「西新井ラーメン」を啜ったものである。何の変哲もない中華そばなのだが、立ち食い蕎麦もそうだが、こういったシチュエーションで食べるものは、何て結構なのだろうだといつもながら思うのである。JR新幹線名古屋駅ホームの立ち食いきしめんは、名古屋市内で食べたきしめんより旨いように感じるのは私だけではないないだろう。
話が違った方向に行きだしたので戻る。オジサン15歳の時に神奈川に引っ越したのだが、その時に思い出にと、この「西新井ラーメン」を最後に食べたような記憶がある。それから幾世霜、40年ぶりに同窓会で西新井駅に降り立った時に、以前とほとんど変わらない「西新井ラーメン」が目の前に現れた時の感動は今でも忘れられない。その時は食べる時間がなく味を確かめることはできなかったが、今度、こちらのほうに来た時は必ず食べようと誓いを立てたのだった。それから5年、行く機会がなかったが、この度やっと、それが叶う機会が訪れたのだった。何と45年ぶりの「西新井ラーメン」である。
食券で、連れはノーマルなラーメン(500円)を、私は糖尿なのでチャーシューメン(680円)<炭水化物だらけのラーメンには野菜や肉を入れたほうが血糖値対策になる>のチケットを購入。L字型ステンレスカウンターにはすでに男性3人ほどが麺を啜っている。中の厨房では老齢の男女が黙々と仕事をしている。チケットを女性に渡し、一番端っこの開(あ)きスペースでしばし待つ。5分ほど品が目の前に。まずはスープを啜る。チャーシューの下から麺を手繰る。中太縮れ麺の感動的なノーマルの中華そばである。きっと45年前と味はそれほど変わらないのではと思う(さすがに45年前の味は忘れてしまっている)。何故かと言えば、最近は中華そばも進化を遂げて、これほど何でもない普通の中華そばが少なくなっているからである。関東の中華そばはマズイと西日本の輩がほざく時に食べる典型的な関東の中華そばの味と言ったら、西日本のお歴々にはその味が分かるのではないないだろうか。しかし、東日本の人間には、これがザ日式中華屋の典型的な中華そばであり、これがオツな味というものなのである(ほとんど中華屋で素のラーメンは食べないが)。さっと食べてさっと去る立ち食いラーメン(ほとんどないが)はやっぱりこれのような…。これほど何でもないと貶すようなこと(褒めている)を述べたが、一つこのラーメンが凄いのは「返し」の凄さである。さすが52年年季、そんじょそこらのパット出のラーメン屋の「返し」とは違うのである(タレがダメな焼鳥屋と「返し」がダメなラーメン屋が増えている)。欲を言えば、もっと出汁にお金をかければ、街中のラーメン屋など駆逐する力を持つのだろうが、出汁の進歩はコストの面でこの値段の立ち食いでは無理だろう。コレデイイノダ。
それよりも、オジサン、45年前のあの当時のことを想い出してノスタルジックな気分で麺を啜ったのである。そして東武鉄道様、この「西新井ラーメン」を決して潰さないでください、この店と「返し」を守って下さいと、JRが品川駅の開発(屁のような駅になった)で常盤軒(駅そば有名店)をズタズタしたような轍だけは踏まないで下さいね、と心で呟いていたのである。
西新井ラーメン
ラーメン、カレーライス
電話:03-3606-1187
住所 :東京都足立区西新井栄町2-1-1
東武伊勢崎線西新井駅構内
交通手段:西新井駅構内 3、4番線ホーム西新井駅から43m
営業時間:8:00~20:20(L.O.)
日曜営業定休日なし