No.19 神奈川県横浜市「サンマーメン」考

 もう45年前になるが、15歳の時に東京都足立区から神奈川県横須賀市に引っ越した。その頃はバブル前で、現在よりも街が画一化されていず、それぞれの街がそれぞれ特徴的な匂いを発していたように思う。その頃足立区は、どうしようもない民度の低い、生活感だけが漂う庶民の区であり、また横須賀は基地の街という影を背負った暗さのある市であった。やっと足立区から離れられることと、神奈川県という東京の東北地区にはない輝きを放っている地域に引っ越せるという期待で胸を膨らせての移動であったが、何のことはない、両方とも場末感漂う灰色の街であったが、やはりかなりの文化的差異を感じながら新しい地域での生活に馴染もうとしていたように思う。そんな時に少し驚いたのが「サンマーメン」というラーメンだった。こんな名前のラーメンは私の知るかぎり東京にはなかった。初めて食したのは、高校の近くのラーメン屋だったように記憶している。感想は、「何だよ、もやしそばじゃないか(東京下町のあんかけもやしそば-しかし、サンマーメンは普通あんが塩)」という一言だけだった。これを何で「サンマーメン」というのかは、その時は深く考えなかったが、「あんかけそばー広東麺、あんかけもやし」が好きな私は、はまってしまい決まって中華屋へ行くと「サンマーメン」を注文していた。
 それから、数年たち、大学の試験を落ち、1年間の浪人生活を横浜の反町にある予備校で過ごすことになり、予備校の近くの中華屋に「サンマーメン」の旨い店があり通うようになったのだが、ふっと「サンマーメン」の境界はどこなのだろうか、というのが気になりだした。それというのも、横浜の反町という位置が、調査には絶好の場所のように思えたからである(その当時境界探しのような企画物がマスコミでも流行っていたように思う)。私は反町、東神奈川、綱島、鶴見周辺の中華屋をめぐり、どの辺から「サンマーメン」が消えていくのかを調査したところ、鶴見川を越えると確かに少なくなり、東横線沿線では白楽を越えるとほとんど「サンマーメン」を出すところはなくなったように感じるが、その頃は毎日のように「サンマーメン」を食べていたように思う(こんなことをしているので、案の定また大学に落ちて二浪してしまった)。現在では、東京でも出しているところがあるが(横浜文化圏から離れている北東、東北地区には少ない)、40年前は、確かに神奈川県横浜周辺だけでしか食べられないソウルフードだったのである(西では富士川が境だという説が強い)。


 この「サンマーメン」漢字では「生碼麺」と「生馬麺」と書き、広東語で「生馬麺」の「生(サン)」は新鮮でしゃきしゃきした、「馬(マー)」は上に載せるという意味があり、「生碼麺」表記の場合の「碼(マー)」は港の埠頭を表す意味で、港で働く労働者に提供されていた麺料理と言う説もあるそうだ(「かながわサンマ-麺の会」のHPより)。
 発祥は中華街にある「聘珍楼」(メニューには、昭和5年に当時の料理長が創案した麺料理と書いてあった。サンマーメンの具の主役がもやしで、横浜中華街に、もやし工場があった事から、サンマーメンが横浜中華街の中華料理店のまかない食だったという説はかなり有力らしい)で、現在、私たちが食べているポピュラーな「サンマーメン」は伊勢佐木町の「玉泉亭」が源流らしい。確かに、両方食したが「聘珍楼」より「玉泉亭」ほうが馴染みのある「サンマーメン」である。というか「聘珍楼」は高級中華なので、そう頻繁には庶民が行ける場所でないので、「玉泉亭」の発祥改良型が広がったというのが、事実なように思う。それでは、「あんかけもやしそば」と「サンマーメン」の違いは何なのかと言えば、はっきり言って違いはない。笑えるが、「聘珍楼」の「サンマーメン」は品の良い「もやしあんかけそば」である。ただ私は「サンマーメン」は醤油スープに野菜の塩あんかけで、「あんかけもやしそば」は醤油スープにもやしの醤油あんかけという定義をしている。困ったことに、たまにお店により横浜で醤油あんかけの「サンマーメン」が、東京で塩あんかけの「あんかけもやしそば」が登場してしまうことがあるので私の定義も怪しいのだが(ゴメンナサイ)。その時はもやしの量ということで判断すればいいのではということで逃げるようにしている。
 最後に、これは都市伝説であろうが、鹿児島から上京して東横線のK大学に入学した純朴な学生が、先輩から横浜には「サンマめん」という、サンマの身を細かくし、スープに混ぜた絶品ラーメンがある、と聞き、常日頃東京ラーメンのあっさりさに食い足りない気持ちでいた彼は早速食べに行った。食べてみるとサンマなど入っている気配がない、店主に何故「サンマ」が入ってないのかと聞くと、その店主も洒落っ気があり「サンマは目黒だよ」と冗談を言うと、彼は真面目にその言葉を受け、「サンマめん」を探し求めて今度は中目黒の中華屋まで行ってしまった。そこで「サンマめん」を注文するが、店主は「サンマーメン」の存在は知っていたらしく、一言「サンマ―は横浜だよ」と、その純朴な学生は、そこで都会の厳しさをはじめて実感したという話。「サンマーメン」は、私を二浪に追いこんだり、幼気な学生を惑わせたり、罪作りで奇怪なソウルフードなのである。

聘珍楼(へいちんろう)横濱本店
住所:神奈川県横浜市中区山下町149
電話:045-681-3001
営業時間:11:00~15:00 17:00~22:00
土11:00~23:00 日~22:00
定休日:不定休
公式web:https://www.heichin.com/

玉泉亭(ぎょくせんてい)本店
住所:神奈川県横浜市中区伊勢佐木町5-127
電話:045-251-5630
営業時間:11:30~21:00
定休日:火曜

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA