麺食いである。生まれてからこの方、どれだけの麺を食べてきただろうか。ひょっとすると米と同等かそれ以上ではないかと思う。最近は糖尿病になり、米も麺も躊躇いながら食べているが、日本の昼食は米と麺がダメなら何があるのかと、寂しい食生活になったものである。蕎麦、ウドン、スパゲッティ、特にラーメンなら東京の中華そば、札幌ラーメン、九州ラーメン、最近では横浜家系となんでもごじゃれである。
そんな麺食い人生のなかで、今でも気になっていることを、今回は即席麺「うまかっちゃん」の話と絡めて語らしていただければと思う。極めて私的になるがお許し願いたい。
それは、九州人の九州ラーメンの偏愛についてである。
もう40数年前のことなのでかなり古いが、当時東京都田無市の予備校の寮にいた私は相も変わらず勉強もせず、そこで知り合った友人たちと悪さばかりしていたのだが、その仲間のなかに鹿児島出身のKという男がいた。この男、故郷鹿児島への想いが半端なく強く、三畳一間の部屋の壁に桜島やその他名所写真をベタベタと貼り、話すのは鹿児島の自慢話ばかりで(でもこれで鹿児島のことを鹿児島人より知りました)、内心まだ若かった故郷のない私などは関心を装いながらも心の内で「そんなに故郷を愛しているなら田舎帰れば」と舌を出していた。そして、変わっているのは、この男、部屋に行くと必ず鍋を持ちラーメンを啜っているのである(お前は小池さんか)。そして、「東京はラーメンがマズイので、田舎からインスタントラーメンを送ってもらっているんだ」と常に「東京のラーメンはマズイ」と連呼しながら食べているのであった。彼が食べているインスタントラーメンが、「うまかっちゃん」と「マルタイ棒ラーメン」だったように記憶している。40年前だからまだまだ九州ラーメンが東京進出目の前ぐらいの時期だった。その時、初めて「うまかっちゃん」を彼から貰い食べた。食べた感想は、「だからなんなのだ」だった。というか、彼がそんなに言うならよほど旨いのだろうと想像していたのだが、がっかりだったのである。それから幾星霜、何度か他の九州人と知り合いになったのだが、彼らから出る言葉は決まって「東京ラーメンはマズイ」であった。一番凄かったのは、北九州出身のライターYと北九州一の任侠組織K会の会長M氏(当時)に会った時だった。Yが会長に「東京のラーメンはマズイ」と盛んに喧伝するものだから会長は漢気をだして、「それならば宮田さんに美味しいラーメンを食べさせなければ」と子分に指示を出し、北九州じゅうのラーメン屋に連れていかれたのであった。私、東京のラーメンが九州のラーメンよりもマズイとはこれっぽっちも思っていないので、食べた後にどう感想を言えばよいのか、相手は◯◯ザである。何とも情けない顔で「旨い旨いですよ」を連発していたような気がする。ラーメンよりも北九州でしか食べられない物をと思ったが、どうにも九州人の「ラーメン魂」にはついていけないものがあった。九州豚骨ラーメンは嫌いではない、しかし、彼らの「絶対だ」と言うほどに九州豚骨ラーメンが「絶対」だとは思えないのである。これは大阪人にもいえるが、彼らは自分たちの食を「絶対」だと思っているのだが、鳴り物入りで進出してくる大阪食なるものが、ことごとく「関東」で失敗しているのもその例である。
そこで即席麺「うまかっちゃん」の話に入るが、この「うまっかちゃん」九州では絶大なる人気を誇る。しかし、九州出身者が何故、東京ではメジャーの広がりがなく特定の場所でしか買えないのかと疑問を呈するのだが、結論から言うと「旨くも不味くもないー普通」だからである。お前の好き嫌いを普遍化するなと、言われそうだが、いや関東の人は、私と同じ感想を持っている人が圧倒的に多いのではないか。その理由はパンチが足りないのである。そして麺が旨くないのである。豚骨味はあの強烈な匂いではぐらかされるが、味そのものは実はアッサリして、醤油などよりも繊細なように感じる。しかし、関東は醤油が旨いので、関東人はどうしても醤油に傾きがちになると同時に、実は豚骨味に物足りなさを感じてしまうのである(なかなか深いでしょーしかし、中々理解できないと思います)。
「うまかちゃん」は地方の即席麺だが、会社はメジャーなハウス食品の博多工場で製造されている。最初は普通の醤油の即席麺を出していたのだが、醤油系はダメで売れ行きが芳しくなく、九州人には豚骨だということで、改良を重ね1979年誕生したのがこの商品「うまかっちゃん」である。現在は九州、沖縄、山口県を中心に商品展開をして絶大なる人気を誇っている。しかし、かつて(1983年~2008年)全国展開をした時もあたったのだが、特に関東東北では、豚骨の特有の味が受け入れられず撤退したという。そういえば確かに、私も「うまかっちゃん」がどこにでもあった時のことを記憶している。それが突然消えてしまったので不思議だったのだが、理由はこの「特有の味が受け入れられなかった」ということだが、それはハウス食品の分析不足か、本音を隠しているのではないか。正直に言ってしまえば「関東人」には特にそれほど「旨い」とは思われなかっただけなのである。もっと言わせてもらえば、ハウスさんの分析とは逆で「特有の味」が感じられなかったのが原因のように思うのだ…。
東京は何でも受け入れることでは世界一の都市と言っても過言ではないだろう。また、受け入れるが、それへの判定が一番厳しいのも世界一のように思うのだが如何か。
「うまかっちゃん」より旨い即席麺がいくらでもあったから売上が今一歩だけだったのである。関東人には「特有の味」がダメだとか、癖のあるのを受け付けないとか、ステレオタイプな見方は捨てたほうが良いように思うのである。良い例として「マルタイ棒ラーメン」はちゃんと受け入れているのである。それでは、「関東人」には普通と思われてないのに「九州人」には何故「絶対的に旨い」と思われているのか、これが、先ほど紹介した私が出会った九州人の例でお分かりいただけるのではないだろうか。彼は頑固に「豚骨」以外のものを拒否するのである。そして「絶対」と思われたものに邁進する癖があるようなのである(これも頑固でスバらしいと言えばスバらしい)。大阪人も似たところがあるが、故に九州人と相性が悪いのではないか、などと勘ぐってしまう。
もう一つ、日頃豚骨ラーメンを食べなれている九州人には、日常毎日のように食べるにはこの泥臭くないソフィストケートされ、くどくないスープが受け入れられたのではないか。しかし、そんなことのない「関東人」には「どこが旨いのかな」になってしまうような気がしないではない。逆にもう少しインパクトが強いものであったら関東人には受け入れられたのうな気もするが、「九州人」と「関東人」では即席豚骨麺のイメージが逆向きだったのが本質的な理由なのではないか。
また麺だが、「九州人」は余り他の即席麺を食べないのか、関東人にはこの「ハウスの麺」はダメな人が多いような気がする。日清やサンヨー食品や東洋水産の麺を食べている人には、この麺?なのである。結論を分かりやすく言うと「サッポロ一番・醤油」と「うまかっちゃん」を食べ比べてみて、後者の方が「旨い」という人間がいれば、私はその人間の舌を信用しないのである。でも九州人は後者が旨いというであろう。何が何でも醤油がダメなのである(あのタマリ醤油のイメージが脳にこびり付いているのかな)。まさに豚骨マインドコントロールと私は言いたいのである。
九州出身の我が良き友よ、豚骨ラーメン以外は食べないなどと味音痴なことを言わないで、他のラーメンも食べてみてゴワス(変な鹿児島弁だな)。最後に「旨くも不味くもないー普通」などと言ったが、地域でこれだけ食べられているのだから全国展開など考えなくて良いのである。ひょっとするとこれはスゴカソウルフードなのかもしれない。ハウス食品も全国展開はもう考えてないと言うことですし、そこはハウスさんアッパレなのである。そして、私は溜まっていたことを吐き出したので清々したのである。
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