No.95 東京都港区新橋老舗洋食屋「むさしや」のオムライスはひょっとすると日本一かもしれない

 かつて仕事をした関係で今でも縁が切れずに月2回ほどアルバイトのために顔を出す会社があるのだが、その最寄りの駅が新橋なので、この駅周辺との縁もかれこれ20年近い。その前は神田駅周辺で17年仕事をしていたので、何とまあー、むさ苦しく、埃ぽい、グレーなおじさんサラリーマンの街に40年近くいたことになる。この街両者ともOnly Working Townで、私などは<エロスー女っ気>のない街と称していたが、ただ飲食だけは充実しており、ここで、私の舌も鍛えられたように思う。何せサラーリマンの唯一の楽しみは食べることで、これに失敗すると、最悪の1日になるため、旨いものを求めて彷徨う舌の肥えた大人がワンサカいる街なのである。故に街の飲食店のレベルも自から上がってくるのは当然で、新橋、神田で、店が1年続けば、どこでもやっていけると言われているほどなのである。考えてみれば当然で、全国のサラーリマンが集まる場所でもあり、それに対処するためには、味の幅もソフィストケートとしなければならないし、それでいて個性がなく凡庸であればアウトなのであるから店側もよっぽど性根をいれなければ、ここらへんに巣食う輩には相手にされないのである。かつて鳴り物入りで進出してきた大阪、博多の店が、東京を舐めてかかったのか、半年ぐらいで撤退する姿をオジサンは何度も目の当たりにしている。日本一のA級グルメの街が銀座、日本橋なら、日本一のB級グルメの街が新橋、神田といったところか。
 そんな日本一のB級グルメの街・新橋で戦後から続いている洋食屋が、本日紹介する「むさしや」である。まずは新橋のサラリーマンで知らなければモグリか、頭が大丈夫?と言われるほど有名な洋食屋なので、ここで敢えて紹介するのも気が引けるが、常に混んでいるので食べたこともない人もいるだろうと、老舗の老舗だが筆をとることにした。

 というか、実は私も、かつて一度だけスパゲッティを食べただけで、それ以降、いつも長い列なので入っていないのだが、今回、偶々、16時に店の前を通りがかり、おーっと空いているではないかと、足がカウンターに向いてしまった次第である。
 その前に場所は、ここも新橋では、いわずもがなのニュー新橋ビルの1Fにある。このニュー新橋ビルは、1961年に完成しビルで、低中層階の地下1階から4階までは飲食店、雑貨店、金券ショップ、マッサージ店などまさにサラリーマンを対象の雑居ビルで、通称オジビル(オジサンビル)と言われる。ほんとうに飾らない、プラグマティックな実用ビルで、ここの金券ショップはかつてどれだけ利用したことか(蛇足でした)。このビルも、時代の流れで再開発で無くなると数年前から噂になっていたが、アレレ無くなる気配がなく健在なのは素晴らしいことなのである(きっと権利関係が複雑で手が出しようがなくなっているのだろう)。しかし、地震が起きると倒壊可能性がある危険な物件と言われているのだが、凄く頑丈そうに見えるのは私だけなのか。

 そんなデンジャラスなビルなのだが、サラリーマンは我関せず、いつもながらの日常をおくっているのである。また蛇足だが倒壊して事故でも起こると、一番煩(ウルサイ)のも、このしょーもないサラリーマン連中なのだが…。 ということで、この「むさしや」、創業1885年で140年も続くということ、日本の鉄道開業(新橋駅<のちの汐留駅> – 横浜駅<現:桜木町駅>)が1872年だから、それから13年目に開業というのは、ちょっと驚きだが、実は元は愛宕山で焼き芋屋を営んでおり、洋食屋は1945(昭和20)年敗戦後に開店したという、納得。その頃から洋食屋だったら凄すぎまっせ。まあ、老舗なのは間違いない。店はカウンター10席のみという、ほんとうに小さな店(そりゃ長い列になるわな)。メニュー(写真参照)はカレー(各種)、スパゲティー(各種)、ごはんもの(各種)があるのだが、全てみそ汁付き。ここの名物はスパゲッティーとオムライスなのだが、かつてスパゲティーは食したので、ここはオムライスをと注文。それでは寂しいかなと、トッピングでハンバーグを追加(しかし、糖尿なのにこの欲がいけない、と反省するのだが後の祭り)。カンターにいる異国のおねーさんに注文。横の奥まった小さな厨房で、店主だろうか、忙しく手を動かし調理をしている。横では皆さん黙々と料理を口に運んでいる。3分(早い)ほどで注文品が目の前に。やはり失敗したかな、かなりのボリューム、63歳のオジサンが食べるものではないだろうと、食べる前から反省しきりの泣きそうな情けない男が…。付け合わせのキャベツとスパゲティーも戦意喪失するほどの量。しゃーないと食べられるところまで食べようと、諦観しながら、まずはべジファストで野菜から一挙に口の中へ。手作りマヨなのか、さっぱりして結構なお味。さてとメインのオムライスの端をスプーンでつっつき中身のケチャップライスを検証。中身は小さな鶏肉と玉葱。オムレツとチキンライスを口に頬張る。ケチャップがしつこく重いかなと思いきや、何とも軽るく、いくらでも口に入る。油(バターだな)も上等なものを使っているのか胃に来ない。オムレツの皮も薄くて、高級店のフワフワもたまにはよいが、こちらの皮は昭和の町中華のオムライスを思いだす物、こりゃイイネを心の中で何度も呟くのだった。オプションのハンバーグは大変肉肉しいもので、これも最近お目に掛かれない懐かしい味のもの。アレレ、食すのに難航しそうだと危惧していたのに、あっという間に全て平らげてしまった。最近のオジサンには珍しい一コマが繰り広げられる。ごちそうさまと、おねーさんにと厨房の店主に挨拶して席を立ったのだが、さすが、新橋の老舗、伊達にニュー新橋ビルで店を構え続けていないというのが解りました。かつて、余りオムライス好きでない私が、仕事の取材で東京のオムライスを食べまわったことがあったが、何故ここへこなかったのだろうという反省の思いと、ひょっとするとここのオムライスは日本一かもという、思いが重なり、もうこの後、仕事をしないで帰宅したくなってである。そして、もっと若い頃に食べておけばよかった、と反省ザルになったのであった。

むさしや
洋食、オムライス、パスタ

東京都港区新橋2-16-1 ニュー新橋ビル 1F

交通手段             
JR山手線・京浜東北線【新橋駅】烏森口/日比谷口 徒歩1分
東京メトロ銀座線【新橋駅】徒歩3分
都営地下鉄浅草線【新橋駅】徒歩4分
新橋駅から95m

営業時間             
月・火・水・木・金・土
10:30 – 20:30

定休日
日・祝日