No.39 東京都墨田区錦糸町創業120年の大衆蕎麦屋「丸花」の丼セットはまさに大衆のためのガテン飯。

 錦糸町は東京の中でも独得の風情を醸し出している街である。
 その風情が現代風でなく、多くの終わってしまったオジサンが屯している場末風なので嫌という輩もいるが、この街もだんだんと小奇麗(オシャレ)に様変わりして、今や東東京一の繁華街に変貌し駅前などは大変な賑わいである。
 私は20数年前から、競馬のウインズ場外馬券場と楽天地のサウナに行くためだけに利用させていただいている街だが、最近はご無沙汰であった。というか、私にとってもうどうでも良い街になったのである。そんなどうでも良い街の中で、どうでも良くないものが二つあるのである。それが今回紹介する大衆蕎麦屋「丸花」と「亀戸餃子」錦糸町店(本店を紹介する予定)である。
 東京の街にどんどん大衆蕎麦屋が少なくなっている昨今、「丸花」ズ~っと残っていて欲しい「蕎麦屋」の一軒である。この蕎麦屋、何の変哲もないのだが、その何の変哲のない蕎麦屋が悲しいかな減少しているのである。そして増えているのが、手打ちなどと謳って、拘りのある店主が営むどうにも自由度がない堅苦しいお店ばかり。たかがそばだろうと揶揄したくなるのだが、そういう店に限って、そばは良く出来ているが汁(ツユ)がいけない。そばは汁(つゆ)で食べるのである。極端に言えば汁(つゆ)が先で、そばが後なのである。蘊蓄蕎麦屋を否定するのに、蘊蓄を言ってしまった。これではミイラ取りがミイラになるパターン、かなりヤバイ。
 ということで、この「丸花」の凄さは創業120年(明治初頭)という伝統もさることながら、気取らずに、大衆蕎麦屋の真髄をまざまざと見せてくれているところなのである。
 ちなみについでにこの店『うしろの正面だあれ』(海老名香葉子著)※にも出てくるらしい。
 それでは大衆蕎麦屋の真髄とは何ぞやと言えば、メニューが多いこと、そして、そば自体はそれほど旨くなくてもよい、全てのメニューにおいて安定味があればそれだけでまずは合格。そして贅沢をいえば、中休みがなく昼飲み夜飲みが出来て長居ができれば、もうそれで最高なのである。実は大衆蕎麦屋で長居が出来て居酒屋的利用できる場所が少ないのである。また、店の自由度(何とでもして下さい)が高ければ、もう毎日でも行きたくなるのである。以上の要素が全て詰まっているのが「丸花」で、120年間地元住民はもとより、
 一見のぶらり客、土日の競馬客等、多くの客が訪れ、現在でも大層な賑わいを見せているのである。
 さて何年振りの錦糸町だろうか、街に降り立って周囲を見渡すと基本は何も変わっていないが、以前より人が少ないような、当たり前である緊急事態宣言が解除されたとはいえ街に日常が戻るのは、まだ時間が必要なのだろう。ただそれでも錦糸町は多いが…。
 早速、南口丸井裏の路地の「丸花」に直行。暖簾を潜ると、土曜の時分時で、縦長の店内は7割がた埋まっている。4人席のテーブルに通され、まずは麦酒(ビール)を注文。実は普段なら、1、2品アテ(ツマミ)をたのみ程よく酔っぱらったら、もりそばを手繰って帰るところだが、本日は取材。人気の丼セットを注文せずには何のためにここに訪れたのか、勇気を出して、かつ丼セットの冷たいそば、連れは天丼セットの温かいそばを注文。 蕎麦屋で丼セットなるものをたのむのは何年振りか、糖尿になってからは控えていたが、いつも食べたいなと頭の片隅には抱いていたのである。錦糸町で働く私の友人は、週三日昼、この「丸花」に通い、丼メニューを変えながら常にセットを注文しているらしい。ちなみに丼セットメニューは天丼(1,300円)、ヒレカツ丼(1,000円)、カレー丼(1,000円)、親子丼(950円)、玉丼(900円)、ミックス丼<カツ、親子、玉丼のミックス>(1,000円)とバリエーションに富んでいる。15分ほど待たされて、品が到着。お重に入ったかつ丼と冷やしたぬきそばに、大根と人参がメインのサラダと柴漬けが添えてある。天丼もお重に入り、こちらは温かいたぬきそば。まずは年寄にはそのボリュームに驚く。かつ丼は、オーソドックスながら、味は濃いめの甘辛で、まさに東京の蕎麦屋のかつ丼、そばは硬めで腰があり、汁(ツユ)はさすがに120年の伝統で継ぎ足しされたと思われるコクとマイルドな味。天丼も蕎麦屋に相応しい黒々としたタレで、くどそうな色だがそれほどでもない。最後息切れをしてしまったが、両方共完食し、満足な昼飯を楽しんだのである(その後血糖値上昇で死ぬかも。大丈夫、高血糖では死にません。低血糖がヤバイのです)。カレー丼も名物で人気があるので今度試してみたい。酒のアテも豊富なので、居酒屋としても利用し、最後にそばで〆る。気どらずに粋に飲める最高の場所なので一度訪問してみてはいかがですか。
 また、土日しか利用したことがないので知らなかったが、平日のランチに席に座るとまずお味噌汁が出てくるそうだ(くれぐれも注文していないとは言わないように、サービスですから)。
 近くにこんな店があれば毎日顔を出したいものである。丼ものは食べないけどね…。

※『うしろの正面だあれ』(うしろのしょうめんだあれ)
海老名香葉子著の児童文学作品。太平洋戦争中の著者自身の体験を小説化したものである。1985年に金の星社刊。1991年3月、同名の劇場版アニメーション映画が公開。タイトルである『うしろの正面だあれ』は劇中で、かよ子たち子供が遊んでいる時の童歌の内のワンフレーズである。しかし、劇中で遊ばれている(唄われている)のは『かごめかごめ』ではなく『坊さん坊さん』の方である。

蕎麦処 丸花
そば、カレー(その他)、うどん
電話:03-3631-4423
住所:東京都墨田区江東橋3-6-8
交通手段
JR総武線 錦糸町駅 南口 徒歩4分
地下鉄半蔵門線 錦糸町駅 徒歩 5分
錦糸町駅から288m
営業時間:11:00~21:00(L.O.20:30)
日曜営業
定休日:火曜日