No.31 東京都台東区谷中「一寸亭(ちょっとてい)」のもやしそばのトロトロ

 「辛い臭いは癖になる」というフレーズをご存じだろうか。知るわけない、当たり前である私が今作ったのであるから。しかし、当たらずも遠からずのような気がするのだが如何だろうか? 
 現在、ラーメンは激辛、豚骨臭や魚介臭の店にこぞって客が集まり、行列を作り「癖」がなければラーメンでないという状態である。確かに「辛い、臭い」は脳に激しく反応し、記憶に残る中毒性があるのだろうが、オジサンなどは関東のなんでもない「中華そば」に出会うとホットする。しかし、最近は日式「町中華」が少なくなり寂しい限りなのである。
 もう一つ、癖になり脳に反応するものとして「あんかけ」もあげられるような気がするが如何だろうか(No.25スタカレー)。私などは、初めて大衆蕎麦屋に行くと、何故か「あんかけうどん」注文してしまうほど「あんかけ」が好き(最近「あんかけうどん」を出す店が少なくなった)なのだが、それは「あんかけうどん」でその蕎麦屋の力量が分るからである。「あんかけうどん」の旨い店は、必ず他の品も失敗が少ないのである。何故蕎麦でなくうどんを食べて蕎麦屋の力量が分るのか?そもそも、私は大衆蕎麦屋の蕎麦などどうでも良いのである。それよりも、そこの汁(ツユ)が旨いかどうかを決め手にしているからである。あんと汁(ツユ)の味の絶妙な塩梅加減が良いところは、かけ蕎麦を食べても必ず合格点が出る店が多かったのである(これを宮田の「あんかけ」の法則という)。まあ、それはただ父親が愛知県出身で「あんかけ」が滅法好きだったために、それが私に遺伝したという結末なだけかもしれないが…。
 ヤバイ、またいつものように枕(マクラ)が長くなってしまったので本題に入りますが、本日は、台東区谷中の「一寸亭」のもやしそばを紹介したい。因みに外部から来た人はほとんど「いっすんてい」と呼んでいるが人が多いが「ちょっとてい」と読む。
 この「一寸亭」地域に根ざした「町中華」として創業して48年、現在谷中と言えば、夕やけだんだん、ザクロ(トルコ料理)か「一寸亭」と言われるほどになっている(ホンマか)。それもこの地域、「谷根千」(谷中、根津、千駄木)と言う呼称で、下町情緒が残る街として有名になりドラマの舞台になることも多いが、その影響か現在は何だか観光地のような有様で、土日などは多くの観光客で賑わっている。しかし、地域住民には余りこの現象を芳しく思ってないらしく、古くからの住人は、昔の静かな地に足が付いた谷中に内心戻って欲しいのが本音らしい。そんな状況の中、「谷根千」で商売をしたいという人も多く、新しい店も出来るのだが、実はこの「谷根千」商売を持続していくのがかなり困難な地域で、ひっきりなしに店が変わるのである。土日は各地からの観光客で賑わうが、平日は、日常の地域住民を相手にするだけの方に傾き、その客足のギャップは相当なものなのではないか。確かに平日に入るかなという脱サラしたおっさんが寡黙に蕎麦を打っているような値段が張る蕎麦屋(理屈蘊蓄蕎麦屋)が不忍通りに犇(ひし)めきあったりしている。
 このような中、「一寸亭」はコツコツと谷中の地域住民に奇を衒うことなく、普通の飽きのこない中華料理を提供してきたのである。そして、この店の名物と言えば地域住民で食べたことのない人はいないと思われる「もやしそば」である。


 何も考えもなしに土曜に店に訪れてしまったのが、開店(11時30分)の15分後だったがカウンタ―とテーブル席は埋まり、小上がりの1卓テーブルが開いており、連れと素直に腰を下ろす。餃子にチャーハンともやしそば(これ定番)を注文。10分で3品同時目の前に。まずは、細長いもやし(特注らしい)に豚バラ肉だけのシンプルな具の混ざったトロトロあんを見て食欲がそそられる。シャキシャキのもやしとトロトロ醤油あんが絶妙にマッチしている。下にはあっさりスープに中細麺があんを溶かせていく、もやしのあんと麺をからめて啜る、これは癖になる一品である。ラー油をドバっと入れ味変をしてまた麺を啜る、残ったスープは酢を垂らしマイルドにして完食。餃子も薄皮で野菜多めの私の好みのもの、チャーハンはもやしそばと人気を二分し、パラパラパラ系の絶品。まだ他の品を食べていないがここは何を食べても間違いなさそうである。食べ終わって入口を見ると、おーっとお客が列をなしているので早々とお暇する。店を出るとどこぞからきたのか若い男女の集団が「ここがいっすんてい」といって「いっすんてい」が飛び交っていたが、「ちゅっとていだからね」と心で呟いている私がいた。観光客は浮かれているが、ここはズ~っと流行に追われずに、地域住民のために地に足がついた商売をして欲しいものである。その後オジサンは普通の良さとは何かを考えながらトロトロと家路に向かったのだった。

中華料理 一寸亭(ちょっとてい)
住所:東京都台東区谷中3-11-7
交通手段:JR日暮里駅から徒歩8分程度、夕焼けだんだんを降りて谷中銀座の途中左の路地千駄木駅から317m
電話:03-3823-7990
予約不可
営業時間:11:30~21:30(20:00LO)
日曜営業
定休日:火曜日

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