No.48 東京都台東区竜泉の天羽飲料製造の「天羽の梅」は未だに成分が分からない下町の不気味なソウルフルエキス。

 日本の酒文化の中にサワー(酎ハイ)なるものが浸透し、今では、ビール、日本酒、ウイスキーを凌駕するようなドリンクになったのはいつ頃だろうか、思うに、私の大学生の頃(40年前)には、まだサワーなるものは飲み屋にはなかったような。それから十年後のバブル期には、すでにあったようにも思うので、80年代後半~90年代前半あたりかもしれない。そう考えると、まだまだ新参の飲み物だが、これにより貧乏人の酒と言われ、東京などでは飲む人が少なかった焼酎ブームが到来し、それに追随して、マニヤックだったホッピーやウイスキーハイボールもブームになるのであるから、その時代から現在が日本の酒文化の大変革期と言ってもあながち間違いないような気もするが如何だろうか。それではこのサワー(酎ハイ)なるドリンクは、ブームになる以前は誰が飲んでいたのか。
 それは東京の下町の場末の居酒屋(やきとり、やきとん屋)で、貧乏労働者が、ビールや日本酒が高いので、それよりも安い酎ハイで、これまた安いツマミを流し込んでいたというのが当たっているのではないか。ビールや日本酒を欲しているのであるが、高いのでそれを控えて酎ハイで我慢という何とも物悲し気なドリンクが、今ではお洒落なドリンク(これによりどれだけ居酒屋に女性を誘い込むことができたことか)に変貌してしまうのだから時代というものは面白いものである。
 その酎ハイの中でも、その頃の下町の場末の雰囲気にピッタリのイメージが「下町のハイボール」だと思うのだが、皆さんご存じだろうか。今でこそ元気な独立系のチェーン居酒屋では出しているところは多々あるが、以前は下町のある特定の場所(そして一部中央線沿線の居酒屋)しか存在しなかったのである。私も初めて飲んだのは中央線・阿佐ヶ谷の居酒屋だったような。見た目梅サワーのような色合いなので、味も梅味かなと思いきや、何とも味らしい味がしない。形容のしようのない無味といえば無味なのだが、それではただの酎ハイかというと少し違うのである。女店員にこれは何が入っているのかと尋ねると、「ヒミツ」とあしらわれ答えてくれない。その当時はスマフォなどなく調べられずに店を出たのだが、酔いが醒めるとそんなことはどうでもよくなり、それから幾世霜、ある時、ふと下町の居酒屋の暖簾を潜りカウンターを見渡すと、客のほとんどが黄色い液体の入ったサワーらしきものを飲んでいる。他のドリンクはご法度かと思わせるほどの空気感。そしてほどなくそれはあの「下町のハイボール」なのだと気づいたのであった。だがここは当然のことながら、下町、下町などと言わないただの「ハイボール」。そんな雰囲気に対抗できるほど気が強くない私は、数十年ぶりで「下町のハイボール」を喉に…。思い出してきたのである、あの味のない味を…。そこでは3杯ほど飲んだが、さすがにこの呑兵衛の黒帯集団のなかで、この「エキス何ですか」など怖くて聞き出せず、残念ながら何だか喉に骨が引っかかった状態のまま店を出たのであった。また日常生活に戻ると、そんなことも忘れ気にならなくなっていたのであるが、最近、ユーチューブでなぎら健壱の番組を観終わると、関連番組として、「タモリ倶楽部」<下町のハイボールを飲もうFc2>が現れる。気になったので番組を立ち上げると何と「下町のハイボール」の詳細番組だったのである。製造会社の社長とタモリとなぎら健壱、玉袋筋太郎、水道橋博士が「下町のハイボール」の歴史や飲み方等を紹介する内容で、撮影場所は私の自宅の近くの居酒屋「遠太」(閉店・三ノ輪)であったので何か奇妙に感じたのだが、このエキスの製造会社(天羽飲料製造)も台東区竜泉で、私の自宅の目と鼻の先。そして、私が数十年間、分からずに引っかかっていたことが明解になる一瞬であった。そして驚きはこの番組の放送は90年代で、私の阿佐ヶ谷での初体験よりも数年早いのである。その解答を知るのにどのぐらいの歳月がかかり、疑問に思う以前にその解答がTVの全国放送で流れていたとは、そして、その解答の元が自分の目の前にあったとは、自分の間抜けさに愕然とした同時に、変わり身が早い私はすぐ立ち直って、次にはこのドリンクとの結縁を感じたのだった。

 早速、このドリンクを買い求めるために、会社に足を運んだのであったが、そこでは小売販売をしいないという。どうしようかなと周辺を探して回ると、これぞ灯台下暗し、何と私がよく顔を出す入谷の「水上酒店」にあったのである、それも全種類(ハイボール赤・黄色、青<うめ>)の他天羽飲料の隠れた名品と謳われるニューガナー、ブドウ液、レモン、ミント、レッドボールも在庫がある。天羽初心者の私はさすがに定番の赤(一升980円)を買って自宅に持ち帰る(尚、天羽商品はネットで買うより「水上商店」が安いです)。早速ラベルに書いてある甲類焼酎に3分の1水を加えエキスを2:炭酸3で割り氷を加え、まず一口飲む。無臭の紅茶を加えたような感じがするのでプレーンな酎ハイではない(当たり前か、入れる意味がなくなる)、それではどんな味なのか、表現しようがないので飲んでください。しかし、癖がなく飽きそうにないので何杯もいけそうなのが味噌なのである。レモンスライスがないので変わりに大長の生レモン絞りを少々加える。オー中々イケルのである。しかし、このエキス成分は何なのかとラベルの原材料名を見るも、酸味料、香料、着色料、保存料(安息香酸Na)としか書いていない。こりゃ、これだけ安価のシロップ、質の良いものは入ってないのは当然だが、これでイイのである気持ち良く酔えれば。健康に悪いなどと野暮言いなさんな、どのみちお酒などは健康に悪いのですから。今後オジサンこの「下町のハイボール」は晩酌に加わりそうである。何せ安いからそんなにカロリーもないような、糖尿にも大丈夫そうな気がするのであるが…(ホントか)。
 しかし、戦後の闇市で売っていそうな不気味なエキスという比喩がピッタリなのは間違いない。それより、私の好きな俗に言う焼酎の梅割り(ワンコップの生焼酎に少々梅シロップを垂らす―これを飲ます店は少ないがーだいたい三杯まで)は、ここの青(うめ)を使っているのだろうか?そんなことはないと思うが興味が尽きなくなってきた。

天羽飲料製造有限会社(てんばいんりょうせいぞう)
住所:東京都台東区竜泉3丁目37−11

水上酒本店(みずかみさけほんてん)
住所:東京都台東区入谷1丁目20−7。
天羽飲料商品がネット通販より安くお求めいただけます。
公式Webサイト
http://www.mizukami.org/