No.3 東京都足立区縁日の「文化フライ」

 私事で申し訳ないが、15歳まで足立区で育ち、私のソウルフードとはこれではないかと思い、選ばさせていただいた。
 実は、この存在忘れかけていたのだが、40代の時、小岩のお好み焼き屋のメニューで妙な名前の品を発見し、面白がって注文したのがきっかけで、私の記憶が身体の奥から呼び覚まされた、まさに私のソウルフードと言っていい一品だった。その名は「文化フライ」。
 足立区のお祭りでは、必ずと言っていいほど店を構えていて、焼きそばやお好み焼きに匹敵するほどの人気の食べ物だったのである。私はこれを食べたくて、確か母親の財布から百円を盗んだのであった。また、この「文化フライ」ゲームに勝つと、おまけに1本貰える店もあったのではないか、めったに勝てないのだが(イカサマなのだから)、そんな様々な記憶が小岩で「文化フライ」を食し甦り、大げさだが魂が揺さぶられたのは確かであった。
 文化フライとは小麦粉を練ったものをワラジ形にして、パン粉をまぶして揚げ、秘伝のソース(ウスターソースに何か入れた、秘伝というほどのものでもない)をたっぷりつけて食べるもので、貧乏な足立区民の子供たちにとっては、お祭りにしか食べられないゆえに、だからこそ、お金を盗んでも食べたみたくなるファストフードだったのである(私だけか)。調べてみるとこれを考案したのは、足立区梅田の季節商品販売会社長谷川商店の社長さんだそうだ。西新井大師の縁日を始め、足立区周辺のお祭りの縁日で売られていたもので、やはり足立区でしか食べられないものだったらしい。2001年ごろまで露店の出店がされていたが、それ以降、長谷川社長さんの体調もすぐれず、露店がでることもなくなり、まぼろしの食べ物となりかけていたが、熱烈なファンの後押しがあり、千住のもんじゃ店で出しているところもあるらしい。しかし、この食文化を切らさずに続けていただいていることはありがたいが、やはり「文化フライ」はお祭りの露店が合うような気がする。