最近ではテレビ等で紹介され、ご存じの方も多くなったのではと思うが、東京の超ローカル食がこの「からし焼」である。
どんな食べ物なのか? マーボ豆腐がひき肉から豚肉に変わり、ニンニクをたっぷり加え、片栗粉が入ってない食べ物と表現すると一番分かりやすいのではないか。東京の人でも、どれだけ食べた人がいるだろうか、何せ十条界隈しか食べられるところがないのだから。
しかし、私と「からし焼き」の出会いは、40年前の学生時代を過ごした江古田だった。「ランチハウス」(場所は違うが現在でもある。昔より店舗が大きくなったような)という小さな定食屋(ここの奥さんは瞳が大きくカワイかったーカンケイナイ)がこの「からし焼」を名物として出していた。すぐ虜になり、学生時代の私の昼食は大学の学生食堂か、この「ランチハウス」か、今では江古田伝説の「愛情ラーメン」(後に幻のソウルフードとして紹介予定)の三つが定番だった。そして、この「からし焼」が十条発祥で、その界隈の「ソウルフード」であることを知ったのは最近になってである。まあ、十条と江古田は近いといえば近いが、十条から江古田へ流れて行ったのであろう(江古田はもう一つ「洋包丁」でも食べられる)。
十条はJR埼京線の十条駅とJR京浜東北線の東十条駅にまたがる地味だが住むには便利な東京の穴場的場所(十条商店街は訪れる価値あり)だが、隣の赤羽ほど、外部からこの場所を目標に訪れる人は少ないだろう(篠原演芸場<大衆演劇>に訪れる人以外は)。
しかし、最近では、この「からし焼」を求めて、続々と人が外部から押し寄せるらしいと聞く(ホントウカ)。それを確かめるべく、その「からし焼」の発祥地である東十条の「とん八」へお邪魔した。
ネット情報だと、この店の初代(現店主2代目)が昭和39(1964)年にとんかつ屋としてスタートさせた。はじめは店員がまかないで出していた豚肉のニンニク唐辛子炒め豆腐入りを食べていたのをお客さんが見つけ、俺にも食べさせろと出したところ、それが評判を呼びいつの間にか「からし焼」の店に変貌していたというのが、この店の歴史らしい(最後は「とんかつ」を注文する人がいなくなってしまったそうだ)。
比較的平日が入りやすいというので(ニンニクが大量に入るため平日はお客さんが避ける)、月曜日の11時40分に到着。カウンター10席だけの小さな店で、先客は2名ほど、まずは安堵。ビールを飲みたいところだが、また緊急事態宣言でアウト。からし焼きにごはんを注文。4、5分で懐かしい「からし焼」が目の前に、まずはスープを一口、旨辛でふんだんにニンニクが効かせてあり、タマラナイ味。これは脳に記憶が残り癖になる味だ。ビールが飲みたいと思いながらもご飯をかき込む、ここのご飯は普通盛でもかなり多い―血糖値急上昇しているだろうと思い、<ごはん少々>にしておくべきだったと後悔。しかし、どんどんご飯が進む。糖尿でなければお代わりするのに残念。隣の人は南ばん焼きなるものを食べているがそちらも旨そうだ。今度はこれだなと当然ビールと一緒に。
38年ぶりの「からし焼き」なので記憶が薄れてはいるが、江古田の「からし焼」と比べるとさすが元祖、パンチが全然違うように感じた。しかし、これは良い意味でメジャーにはならい味のよう気がする。というか、こりゃ、この店主しか作れないだろう*。因みに十条駅近くの「大番(おおばん)」と大衆酒場の「みとめ」でも「からし焼」が食べられるが、この三店が御三家と言われているらしい。今度はそちらにも顔を出そうと、この時だけはマスクの有難味を感じ駅に向かった。
※十条では「からし焼」のレシピを持っている家庭が多く、自宅でも作るらしいが、「とん八」の味にならず、あきらめて鍋を持ってテイクアウトで持ち帰る人が多いらしい。これぞソウルフードと言わず何がソウルフードと言えるのか、という一品である。
元祖からし焼き とん八
住所:東京都北区東十条3-17-9
JR京浜東北線東十条駅から136m
営業時間:11:30~14:00 17:00~20:00
日曜営業
定休日:木曜
電話:03-3914-1208