No.79 神奈川県川崎市「丸大ホール本店」、この店がある限り川崎は死なず

 都市は恐ろしいもので、行政がどんな努力をしてもイメージを払拭できない場所がある。例えば東京池袋、足立区、蒲田、神奈川県横須賀市、横浜市鶴見区、そして川崎市。特に川崎市は郊外の住宅地などは横浜市の住宅地と遜色がないのにである。私にとっても鶴見以外のこの五つの地区は縁があったので、この何だか埃っぽい灰色のイメージはどこから来るのだろう訝しく思っていたが、長年(そんなに長くはないが)刻んだ<陰気>のイメージは、そう簡単には消えないだろうし、消すことが難しいのだろうか。しかし、面白いのはこの地区は関東でも唯一の特徴的な飲み屋が密集しているように思うのである。それ故と言ってはなんだが、イメージを払拭しなければならない理由などないようにも感じるが、逆にこの灰色のイメージ(ブランド)を魅力にした街の売り出し方もあるだろうにと、現在の都市開発のアイデアのなさに苦言を呈したいとは思っているのだが、無理かな。

 本日は、そのイメージの悪い川崎市にピッタリの居酒屋「丸大ホール本店」(本店といっても支店はない、「孤独のグルメ」や吉田類先生の番組でも紹介されたので、ご存じの方も多いだろうが)を紹介したい、ピッタリとは失礼なと叱られそうだが、ピッタリという表現以外に浮かばないほど、THE川崎している店なのである。オジサンは川崎競馬場で一勝負した後、勝っても負けても(負けてもはない、情けないが交通費しか残さないので)、ここで一杯引っ掛けて塒(ねぐら)に帰った数十年前が懐かしい。本日は20年ぶりぐらいになるのではないだろうか。川崎駅東口出て、ロータリーを左にズーっと歩いて2分ほどの丸大ビルの1階にある。横長の濃紺の暖簾が掛かり、上にはメニューの掲示板が横に広がる。創業80余年という年季が表からも醸し出されている。川崎は戦前から京浜工業地帯のど真ん中地区。どれだけ労働者がここの暖簾を潜り、ひと時体の疲れを癒すために、ここの酒を喉に通したことだろうか。そして、この<ホール>という名称も、今や場末感があり良いのである(鶯谷ミュージックホール、荒川サニーホール)、そんなことを思いながらオジサンも店内に。またホールと謳っていても、そんなに広くないのが笑わせてくれる。6人掛けのテーブルが3つづつ並び、右側に厨房、奥に小上がりの座敷がある。20年前と何も変わってない。変わったと言えば禁煙テーブルが出来たとこか、ここも時代の波に勝てなかったということか、残念である(タバコを吸わないが、どこもかしこ禁煙的風潮は好きでない)。一番空き時の14時に来店したので、いくつか席が空いている。奥のテーブルへと目くばせされ着席。
 

 まずはビール(キリン)の大瓶(650円)を注文。こういう店は生ではなく瓶が絵になるのである。そしてちゃんとした633はさすがである。四方の壁に貼ってあるメニューを眺めるが、チョイスに悩む。とりあえず名物〆鯖(450円)を頼み、飲みながら思案することにする。またそれが至福の時間なのである。〆鯖は少し〆すぎ感があったが、まあまあよろしいのでは(偉そうに)と頷く。次に酎ハイ(380円)とピリ辛ウインナー(300円)を注文。こういう空間だとウインナー(赤)や玉子焼きを注文したくなるのは何故なのだろうか。ただここのウインナーはフランクフルトでした残念。そうこうしているうちに、ゾクゾクと客が入店し、活気が店内に。接客は中年女性2人と若い国籍不明の男性で切り盛り、厨房には長年ここで働いていそうな腕の立つ職人風のオヤジが3人。

 次にこの店の長年からある名物メニュー酢鶏(550円)とお茶割(380円)を頼む。酢鶏はこの店では逃せない。酢豚の鶏肉バージョンなのだが、タレが絶妙な酸っぱさで塩梅が良い一品。20年前食べた印象と全然変わらないのは立派ものである。ここは実は大衆食堂で、定食類やそばうどん、中華、洋食と何でもごじゃれの八面六臂の働きをしており、本日は〆の一品はこちらからチョイスということで、酢鶏に合いそうなポークライス(550円)を注文する。酢鶏を食べるのを抑えて、品を待っていると、まもなく到着。おーっと出てきたのはケチャップライスなのであった。オジサン、ポークライスはチキンライスと違い塩味だと思っていた。だって早稲田の「メルシー」(今後大学のソウルフードで紹介)ではそうだったからである。店によって味付けは違うのだがらと、酢鶏にはちと合わないが、ここは我慢してチキンライスを食すのであった。当然味変にソースも掛けてね。店も一杯で、外では列を作って客が待っている。ここは急ぎお暇しなければと店を出たのであった。奇をてらずに、ズーっと味も変えずに商いをしている「丸大」に、丸大マークの赤い印を大きくつけてあげたくなりました。この店がある限り、川崎は死なず。これで合計3,610円は安いですよね。