オジサンの住む台東区は高齢者とホームレスが住む場末の街などと言われ、上野の山と浅草以外は目を向けられることが少ないのだが、どっこいこの街、隠れた文化遺産が満載なのである。本日紹介するフードも、もし「日本食文化遺産」なるものがあるのならば真っ先に認定されなければならいと思っている。<いまここで>このフードが食べられることの幸福を日本人は改めて認識すべきだろうと…。初っ端から大仰だが、ここのライスカレーを食べると、そう思わらざるおえなのである。ここのカレーは黄色いカレーで、最近名を馳せているのであるが、この投稿でもご紹介したNo.77浦和競馬場の里美食堂とNo.109 新潟万代バスセンターカレーの三つをオジサンは東国三大黄色カレーと称している(他にもまだありそうだが知らないだけですスミマセン)。この三つを比較すると、逸品が万代で、普遍品が里美、そして妙品が東嶋と私なら評するだろう。



大衆蕎麦屋です
さて、この妙品を味わうために本日は3回目の訪問である。この「東嶋屋」の場所は、東京メトロ日比谷線の入谷駅と三ノ輪駅の丁度中間、国道4号(日光街道)に面している場所、そこから徒歩7、8分と大変不便である。外部からの人にとっては、入谷の朝顔市と大鷲神社の御酉様以外には足を踏み入れないような場所なので、「カレーだけ食べに行くかバカヤロー」と言われれば、二の句が継げないが、へへへオジサンは歩いて数分のところに住んでいるので、いつでも気が向いた時に、この「食文化遺産」を堪能できるのである(まいったか)。開店早々(11時15分開店)の訪問で、まだ客はおらず、貸し切り状態。店は鰻の寝床のごとく奥に深い。食べるものを決まっている、迷わず旦那さん(女将の息子さんかもしれない)に「ライスカレー」を注文。ここは「カレーライス」ではダメ、メニューも「ライスカレー」になっているのである。因みに倉本聰脚本のテレビドラマ「ライスカレー」(1986年)による
「ライスカレー」の定義は
①ご飯の上に粘度の高いカレーソースが乗っている。
②口直しとして福神漬かラッキョウが添えられている。
③具のジャガイモやニンジンの大きめの物が入っており、グリーンピースが3つ上に乗っている。
④放っておくとカレーソースの上に膜が張る。
ということ、これは戦後の「ライスカレー」の定義である。まさにこれから食べようとしている東嶋の「ライスカレー」は、その定型にはまらない、それ以前の<ライスカレー>の根源に迫るものが、私の前に現出しているのである。戦前のライスカレーにはジャガイモやニンジンなど入っていない。


しばし、品が来るのを待っていると、いつものように厨房からカレー粉を練っている音が聴こえてくる。厨房は女将さんが仕切っているらしい。
この「東嶋屋」は明治25(1893)年創業お蕎麦屋さん。この周辺は浅草、元吉原(遊郭ー現在ソープランド街)に近いせいか100年以上の老舗はごろごろしている。しかし、どれだけの人がこの店に顔を出したのか、ひょっとすると樋口一葉や正岡子規もこの店で蕎麦を啜ったかもしれないと思うと、感慨深いものがある。5分ほどで、お盆に乗ったライスカレーが到着。お盆にはコップの水の中にスプーンが、そして、その横にはウスターソースがある。このスタイル、イイネなのである。まずは、そのまま口に入れる。辛さはなく、スパイシーでもない。しかし、カレーの味なのだが、塩気も感じる。粘りがあり、粉っぽさもあるが深みもある。具は豚バラと玉ネギだけでシンプルだが、それが素人臭(家庭的)でなくて良いのである。どこにもないカレーなのである。それでいて、味に懐かしさを感じるのである。初めての食体験で何か妙である。調べると、現在は、6代目女将が厨房で腕を振るい、このカレーのレシピは門外不出だそうだ。実は初めて入った時に、蕎麦を食べたいと思い、カレー丼のセットを頼んだのだが、その時はこのカレーは何なんだと、評論家が最強の黄色カレーなどとおだてているが、どこが良いのか、さんざん、その評論家を貶したのである、俄か評論家めと。しかし、オジサンは極力人が旨い旨いと評価しているのに、何も感じず、旨さが分からない時は、再度挑戦することにしているため、また「東嶋屋」の暖簾を潜ったのである。今度は「ライスカレー」単体で食べてみることにした。何と不思議なことに、イケルのである。結構なお味なのである。やはりオジサンがどうかしていたと反省した次第。心の中でその評論家にお詫びをしたのであった。ただ勘違いをしてもらいたくないのは、今やこれよりも旨いカレーはどこにでもあるが、ここでしか味わえない味だということである。ここのカレーは、現在でこそ、様々なカレーを我々は食しているが、日本人が最初に食べた日式カレーの元祖(味の進化はしているだろうが)だと言っても過言ではないことが大事なのである。この令和の時代に100年前に食していた変わらない味を楽しめるのである。一度、勉強のためにもこの「東嶋屋」のライスカレーを味わってみて下さい。最後に「東嶋屋」のライスカレーが元祖日式ライスカレー(ライスカレーは日本の食なのだから日式というのも変だが…)ならば、新宿「中村屋」のライスカレーは元祖インド式ライスカレーと言ったところか、ハマったぜ。


東嶋屋 食堂、そば、うどん
お問い合わせ
03-3872-6261
予約不可
住所
東京都台東区竜泉1-29-3
東京メトロ日比谷線【入谷駅】徒歩6分
東京メトロ日比谷線【三ノ輪駅】徒歩9分
入谷駅から497m
営業時間
月・火・木・金・土
11:15 – 15:00
L.O. 14:30
17:30 – 20:00
L.O. 19:30
水
11:15 – 15:00
L.O. 14:30
日・祝日
定休日
2024年6月より
毎週水曜日は、昼のみの営業
営業時間・定休日は変更となる場合がございますので、ご来店の際は事前に御調べ下さい。