今回大阪に上陸し必ず足を向けなければと思った場所は、1960年代から日本の3大ドヤ街<東京の山谷(さんや)、横浜の寿町(ことぶきちょう)>の一つといわれている大阪の西成(にしなり)だった。「都市を知るにはドヤ街に行け、ソウルフードを見つけるにはドヤ街に行け」という私のつくったフレーズを信じるならば、必ずソウルフードが見つけられるはずだと思ったからである。それと同時に東京の山谷地区近くに住み15年、山谷の変貌を見続けてきた私にとって、西成が現在どのようになっているのかを肌で感じたかったからである。
通天閣とは逆方向に巨大温泉施設『スパワールド 世界の大温泉』(ここのスパはスゲー、時間があれば入りたかった)が入るビルを抜け、堺筋線の動物園前駅、阪堺線の新今宮駅方面へ行くと、あいりん地区西成は目の前と、亀歩きでトボトボと歩く。想像していた通り、町の雰囲気がグラデーションのように徐々に埃っぽく、グレーに近い空気に彩られていく。歩いている人や自転車に乗っている人のなかに、いかにも酒焼けとニコチンヤニ顔で固形物を食べられない身体つきの男たちの姿がチラホラと現れる。ここでの目的は、今や西成で一番有名だと言っても過言ではない「鉄板焼きホルモンやまき」なのだが、地図で見ると、西成地域ご用達スーパー「玉出」のすぐ近くということで、当てにならない方向感覚で向かう。10分ほどふらつくと、目の前には、こちらもかの有名な「あいりん福祉センタービル」が目の前に聳えている。そして、なにを間違えたのか、そのビルの周辺を歩けば、目的地に辿りつけたのであろうが、そのまま環状線今宮、浪速地区方面へ行ってしまい、迷宮状態。目指すはスーパー「玉出天下茶店」なのに、ここは「大国店」。一体どういうことと、これぞお上りさん状態、いま一度地図を確認したのである。
そして、もういちど「福祉センター」方面へ引き返し、建物の前に、何と周辺がごみ溜め状態。ビニールテントもあり誰か住んでいる気配もする。何故、こんな状態で放置されているのか(後に分かったのだが、この建物立て替えのために現在は使用されておらず、立て替えも遅々として進まないらしい)。そして驚いたことに、周辺をガードしている警備員が、いかにもあいりん地区にいるホームレス寸前状態の人々。並んで立っているのだが、ただボーっとしているようにしか見えないのである。この辺にいた労働者を安い時給で雇ったのだろう。まあこれも福祉の一貫と言ったらいえるのだが…。これから、目的の「やまき」に着くまでは、ただ驚きで呆然とすることが多く、ここでは紙数が尽きてしまうので割愛しさせもらうが、警察官とホームレスとの頻繁な喧嘩あり、路上で息もなく倒れている老人に対して、誰一人手を差し伸べることなく、通り過ぎていく人々あり、路上でジーっとこちらを睨みつけるホームレスあり、と今では東京の山谷地区ではお目にかかれないような風景が現存しているであった。聞くところによると、これでも十年前よりは良くなってきたというのだから、驚くべき西成である。
なんやかんやと、西成を観察しながら、やっとのことで「やまき」の店の前に到着。しかし、ガビーン、シャッターが降ろされてていて、「しばらくの間 休みます」※と素っ気ない貼り紙が…。
何となく分かるのである。西成の金のない労働者や地域住民に、物凄いコストパフォーマンスでホルモンを提供していただけの小体(こてい)の店が、ケニチを筆頭とした関西ユーチューバーの宣伝のおかげで?長蛇の列の店になり、それこそ、このような店などに近寄りもしなかったお嬢ちゃままでも来店するようになって、缶ビールや缶サワーをまんま口をつけ飲み、立って肉を流し込む。その輩たちが昔は鉄火場のオジサンたちぐらいしかやらなかった行為を平然とやらかしているのだから、店のご主人も天地がひっくり変える思いがしただろうと思うのである。ネットやユーチュブは、身の程をしりながら、静かに保守的な商いをしているもののスタイルを平気で壊してしまうという弊害もあるのだということを認識しなければいけないのだろう、などとしたり顔で語ってしまったが、再開を待って、いつの日か伺いたい。さて、どうするかと思案に暮れたが、打つ手はあったのである。「やまき」と並ぶ有名店「マルフク」があるではないかと、地図で調べる。歩いて3分ほどの近さの所にあるではないか「マルフク」がと、そちらに足を伸ばす。今度は迷わず到着。やはり人気店、大賑わいである。入れるかなと店を覗くと、カウンターを背にした壁側が空いていた。すぐにそちら向かうと、何やら客の数人が私の方を見つめている気配。外者で、そして大阪人ではないというのが私の立ち振る舞いで察したのか、私も自意識過剰になる。ここだけではなく大阪上陸をしてから、大阪もんではないなという他者の視線を、思い込みかもしれないが、気のせいか感じるのである。何とか気持ちを立て直して、瓶ビール(450円)注文。すぐに633の大瓶スーパードライが到着。安い633がこの値段とは。メニューを眺めると、全てが嘘のような価格(ホルモンが160円にレバー160円、豚ハラミ250円、牛ハラミ320円)。少し恐ろしくなったので、まずはホルモンと牛ハラミと煮卵を注文して、どの程度のものか試してみようと、しばし待つ。2分ほどで白いパック容器(最近安い東京の焼き鳥屋もこの容器を使用しだした)に入った品が到着。量もそれなりにある。さてまずは、ビールを飲みながらホルモンを流し込む、そしてハラミと交代に口に入れる。う~ん、何と表現してよいのやら、さすが安いだけあって、質の良いホルモンではない。ハラミも同様に安かろうというものである。タレもそれほどのことはない。まあ、これだけ安価なのであるから文句は言えないが、関西ユーチューバーに一言もの申したいが、悪口を言えないのは分かるが、「びっくりするぐらいの旨さだとか」「すごくおいしい」「ぜんぜん臭みがない」などと御託を並べているが、確かに臭くはないが、確実に肉は活きていない。レバーを塩で注文していた猛者がいたが、おい大丈夫かと、声をかけたくなったのである。学食の肉を塩で食べる奴はいないだろう。最近関西のホルモン焼き屋が鳴り物入りで東京に進出してくるが、余り芳しくないのは、この程度だからなのか(鶴橋は違うと思うが)、やはり東京では無理なように思う。安いのは確かだが、西成だけの通用かも。最後はニンニクと一味をこれでもかとぶっ掛けて喉を通し、煮卵をさっと口に含み退散したのであった。私の後ろのカンターでは、スラリとした美しい30代ぐらいの女性が一人で飲んでいたが、浮世は時代とともに変化していくのだと実感したのだった。そして、またもや大阪食い倒れに裏切られ、首を垂れながら、あべのハルカスのビルを目指して西成を後にしたのであった。しかし、これからの西成ドヤ街の行方は常に注目してゆきたいものである。戦後の日本の発展はここで働いていた人の力があったからこそなのを忘れてはいけない。そして鉄板ホルモン焼きは西成のソウルフードなのは確かなのであろう。ソウルフードとは旨いとか不味いとかの基準では測れない奥深いものなのである。
※訪れたのは2022年9月中旬だったが、その後10月には営業を再開したそうである。
やまき 今池店(ホルモン やまき)
ジャンル:
ホルモン、鉄板焼き、立ち飲み居酒屋・バー
お問い合わせ:06-6634-3535
予約不可
住所:大阪府大阪市西成区萩之茶屋2-2-7
交通手段
・阪堺電気軌道今池駅 徒歩1分
・大阪市営地下鉄御堂筋線、堺筋線 動物園前駅 (9番口) 徒歩10分
・JR大阪環状線新今宮駅 徒歩8分
・南海電鉄新今宮駅 徒歩10分
・南海電鉄萩之茶屋駅 徒歩5分
・今池駅から25m
営業時間
月曜日~金曜日:14時00分~21時00分
土曜日・日曜日:11時00分~21時00分
マルフク
ジャンル ホルモン、立ち飲み居酒屋・バー、居酒屋
お問い合わせ:050-5890-9648
予約可否
住所:大阪府大阪市西成区太子1-6-16
交通手段
・動物園前駅より徒歩2分
・南霞町駅より徒歩2分
・新今宮駅より徒歩6分
・動物園前駅から88m
営業時間
8:00~22:30(L.O.22:00)
日曜営業
定休日:定休日なし