東京人などと自分では言っているが、15から40歳までの25年間、実家は神奈川県横須賀市馬堀海岸という所にあり、都合10年間ぐらいはそこで暮らし、他東京での一人暮らしの時には盆暮れに必ず帰省していたので、実は半端な東京人なのである。
この横須賀という土地は、三浦半島の中心都市であり、右には東京湾、左には相模湾と、風光明媚で、決して住み心地が悪い場所ではないのであるが、まあー、どこの自治体もそうだが、現在加速度的に人口が減っていて(2015 年の総人口は 40 万 6,586 人で 1990 年からの 20 年間で約2万7千人減少 、2019 年1月1日の人口は 396,971 人で 2015 年から3年程度で約1万人減少―横須賀市人口調査)、市も相当危機意識を持っているらしい。人口減少、これは時代の趨勢かもしれないが、それ以外にやはり横須賀市のイメージも関係しているように思えてならない。基地の街という影とスカジャンを着た不良が集う街というイメージがチラつき(そりや古い)、ドブ板などというネーミングの通りがその暗さに拍車を掛ける(私は好きだけど)。また「横須賀ストーリー」というヒット曲を歌った百恵ちゃんは国民的歌手になったが、母子家庭で育ち冷めた影のある大人げたアイドルとして売り出された。地域的にも逗子、鎌倉、茅ケ崎、藤沢という若者に人気の光輝く湘南地区に比べると、これもまた影のような存在になってしまい、あたかも外部の人間には、この地域は燦燦と太陽が輝かないと思われているのではと憶測したくなるのである。オッサン、スカジャンとか山口百恵とか例えが古いよ、せめてX japanのhideや小泉純一郎にしてくれと言われそうだが、イメージとは歴史の積み重によって増幅してしまうもので、イメージのオリジンに近寄れば近寄るほど、そのイメージの本質的なものが見えてくるので、例えが古ければ古いほうが良いとオッサンは思うのだが、伝わらないかもしれない。
また本題に入る前の枕(マクラ)が長くなってしまった。しかし、もう一言。この横須賀市、米軍基地がなくなったら、どんなイメージの街になるのか、オッサンの頭では想像できないのである。そこが、この街(市)の悲しい現実なのかもしれない。
そこで、この街のソウルフードだが、決して一時期ブームになった海軍カレーなどという設計主義的(町起こしのために上から作るあげられたご当地グルメ)なものはソウルフードとは言えないのである(それより、こんなもの誰も食べてない)。それでは何があると考えたのだが、あるのである、それが「立ち食い焼き鳥」である。
私も横須賀にいた時に一番食べたものはと聞かれ、頭が浮かぶのがこの「立ち食い焼き鳥」だった。そして、これは私事だが、この「立ち食い焼き鳥」が私の人生のターニングポイトの一つであったからかもしれない。
何で、「立ち食い焼き鳥」なの、どこにもあるじゃん(横須賀弁)、と言われそうだが、確かにどこにもあるのだが、やはり、私にはこの「立ち食い焼き鳥」が横須賀市のソウルフードにぴったりとハマり、似合っているように思うのである(反論はあるだろうが)。
現在、横須賀市の「立ち食い焼き鳥」は相模屋しかないが、私が引っ越した45年前は、お太幸駅前店しかなかったように思う(相模屋<創業昭和37年だが>はその頃立ち食いをはしていなかったようなー間違ったらゴメンナサイ)。故に私が主に食べたのはお太幸だった。このお太幸の立ち食いシステムは、種類ごとに並べられた焼き鳥を、食べたいだけそれぞれ自由にとり、食べ終わると目の前に一列に並べられたプラッチクの筒に串を入れ、最後に食べた本数を精算する方式で、相模屋も同じ(筒がステンレスだが)システムである。
しかし、お太幸は、その他に寸胴の容器にタレが入れてあり、串カツのウスターソースのように出来上がったものに自分でもう一度タレを付けることができ(二度付けお断りのはずだが、そんな注意書きはなかったが、誰も二度も三度も付けるヤツはいない)、焼き鳥自体はどれも凡庸なのだけれども、そのタレが旨く、そのタレを楽しむために食べていたような気がする。相模屋にはそのタレがないので、私はいつもお太幸に行っていたような…。
話は変わるが、昔の焼き鳥屋のタレは旨かったが、何で現在の焼き鳥屋のタレはこんなにも不味くなったのだろうか。焼き鳥はタレで食べるものだと思うのだが、こうまで不味くなると塩にせざるをえないかなと、タレ好きの私も変更を余儀なくされるこの頃なのである。
そんなお太幸駅前店なのだが、いつの間にか、立ち食い焼き鳥を止めてしまい、居酒屋だけに徹してしまったようである。横須賀市の代表的な居酒屋(独り飲みにはすごく良い)で、立ち食いなどというメンドクサイことをしなくても良いのだろうが、あのタレの味は、今でも私の記憶に残っている。それでは店内でタレ焼き鳥を食べればと言うなかれ、外で立って食べるのと座って食べるのとは、全然違うものなのである。
最後の何故、私の人生のターニングポイントだったのか、20年前この「立ち食い焼き鳥」を食べて帰ろうか、それともパスしようかと迷いながらも、結局4、5本焼き鳥を摘まんでいると、隣のお母さんが何やら本を手提げに入れようとしている。その表紙を眺めた瞬間に、あることが頭に浮かび、また運の良いことに隣が書店でそこに駆け込んでその本を買うことができたのであるが、その行為がその後私の人生をがらりと変えたのだった(詳細は今後、乞うご期待)。またそれが「終わりの始まり」でもあり、その時、パスしていたら、現在の私は「良いか悪いか」は別にして全然違う生き方をしているだろうことは確かであっただろう。それを考えると、私の中にいつも決定論者になった自分がいるのである。
何だかんだ言っても、現在は相模屋一軒になってしまったが、「立ち食い焼き鳥」が横須賀市のソウルフードだと言ってくれる人は多いように思うのだが、自治体以外は…。
相模屋
住所:神奈川県横須賀市若松町1-1
交通手段
京浜急行本線「横須賀中央」駅から徒歩2分
横須賀中央駅から106m
電話:046-824-5538
予約可否
営業時間
12:00~21:00(L.O.20:45)
日曜営業
定休日:無休
酒蔵お太幸 中央店
住所:神奈川県横須賀市若松町2-7
交通手段
京浜急行横須賀中央駅東口下車寄徒歩1分
横須賀中央駅から29m
電話:046-825-9407
営業時間
[月 ~ 木 ] 15:00~22:00
[金土祝前] 15:00~22:30
[日祝 1階] 13:00~22:00
[日祝 2階] 15:00~22:00
日曜営業
定休日
12月24日、12月31日~1月2日