青森県、この地方には以前紹介したNo.6「源たれ」の他に風変りなソウルフードがある。それが今回紹介する「イギリストースト」である。
この「イギリストースト」、青森県民でまず知らない人はいないと言われるほど親しまれている「トースト」だそうだ。それ故、県民はこの「トースト」は全国区で食べられているものだと勘違いし、別県に移動し、どこにも「イギリストースト」がないことに初めて気づき、愕然とし、またこの食品が青森だけしか売られておらず、青森県民だけでほとんど消費されていることを知るのである。そして自分が「井の中の蛙」だったと認識し、小さな殻から一歩抜け出した気持ちになると言う、青森県民の人生の成長には欠かせないソウルフードらしいのである(大げさかな)。
私もこの歳で(60歳)ではじめて、この「イギリストースト」の存在を知ったのである。この情報化時代、東京には地方の名産品は、だいたいその存在と知識は流れるものだが、「イギリストースト」はそれさえもないのは如何にと思うと(自分が無知なだけかもしれないと周囲の人にその存在を聞いたが、知っている者はいなかった)同時に、日本の奥深い食文化に感動せざるをえないのである。
そんな御託よりも、その存在を知ったのだから実食したいところだが、たまたま幸運にも近くのデパートで東北物産店があり、それを覗くと、何とあるではないか「イギリストースト」が…。早速ゲットして自宅に持ち帰った。赤と青の英国色調の派手な包みのデザインにちゃんとイギリス国旗(ユニオンジャック)が付いていて、中に2枚重ねのトーストが入っている。トーストを開くとマーガリンに砂糖(グラニュー糖)が塗ってある。これは、昔、食パンにマーガリンを塗りその上に砂糖を振りかけて食べた簡易オヤツではないかと。ひとつはスタンダードのもの、もう一つは砂糖にジャリジャリ感を倍増したものと、二種類を買ったが、やはり、ジャリジャリ感があるほうがオツである。食パンにマーガリンに砂糖という組み合わせは、一般的なので何の違和感もないが、現在の豊富な創作パンのある時代で、懐かしのパンという位置づけになるのであろうが、頑固に生き残って販売されているのだから、それもまた現在進行形のパンなのである。
昭和7年4月、青森県むつ市の赤川駅前において、小さなパン屋を開業した工藤半右衛門が戦後、もっと多くの人においしいパンを食べてもらいたいとの一念から、昭和23年11月、現在地の青森市に移転し株式会社工藤パンを設立した。そして昭和42年頃にこの「イギリストースト」を開発して発売したそうだが当初は全然売れず。しかし、地域の中学・高校に卸したところ、手軽で食べやすいため売り上げが伸びてゆき、その後現在まで県民では知らない人がいないほどのロングセラー商品になったと言う。イギリスというネーミングがまた大胆だが、体育館の屋根のような山型のパンのことをイギリスパンと言うそうだ(私知りませんでした)。そのパンをそのまま「トースト」にしたので「イギリストースト」とネーミングし、包みにも先述の通り「イギリス国旗(ユニオンジャック)」を載せ、まさにイギリス一色で販売したそうである(時代ですね)。今では大英帝国にも許可を得た商品なので怖い者なし、ズ~っと最強の地域食品でいて欲しいものだ。この商品のロングセラーの理由は、一に奇を衒うことのない味と、この大胆なネーミングにあるのと、県民にこんなに愛され、また愛され続けるまでの製造会社の凄まじい営業努力があったからこそだと思う(またマーケットを拡大しないということも)。たかが「マーガリン砂糖パン」というなかれ、このソウルフードは何世代もの県民の記憶にこれからも残り続けるのである。決して一見さんお断りではないので、県外の人も食べてみて下さい。イギリスと青森県の変なマッチングが生んだ直球のソウルフードここにあり。
株式会社 工藤パン
住所:青森県青森市金沢三丁目22番地1号
電話:017-776-1111(代)