No.8 神奈川県川崎市京町「元祖ニュータンタンメン本舗」のタンタンメン

 ソウルフードもチェーン店、フランチャイズ化し各地に広がると、もう<ソウル>として役目も終わり、その独特な特殊性もなくなってしまうので、この企画ではとりあげないことにしている。例えば50年ほど前なら横浜崎陽軒の「シウマイ弁当」は横浜のソウルフードの地位を、他の追随を許さないほど不動にしていただろうと思う。しかし、今や関東一円に店舗があり、どこでも食べられるようになってしまい、すでにソウルフードという面影など跡形なくなってしまったのでここには登場することはないだろう(崎陽軒側は結構だろうが)。
 今回登場する「元祖ニュータンタンメン本舗」のタンタンメンも取り上げるのに躊躇ったが(埼玉県草加市で食べられ、カップ麺でも食べられる川崎のソウルフードとは何なのか)、もう川崎市以外に店舗を広げないでいただきたいという希望(余計なお世話)と、発祥が川崎市京町だという理由で、これ紛れもなく川崎のソウルフードであると思い登場させていただいた。
 何故、発祥が川崎市京町だとセレクトされるのか。それは川崎市京町地域一体がソウルフルであり、川崎のイメージを象徴している場所であるからである。元寄りの駅は京急川崎駅の一つ目の八丁畷駅。かつてはこの周辺はまさに京浜工業地帯の一画で、日雇い労働者たちが屯していたドヤ街と称されていた場所であったという。神奈川県では寿町に次ぐスラム街などと言われ、犯罪も多く、危険(そのためか川崎警察署もここにある)で近寄ってはいけない場所というレッテルも貼られていた。東京で言えば山谷(さんや)地区と似たような場所であろう。しかし、こういった場所には必ず、身体に正直な旨い料理が現れるというのが、私の法則ならぬ、直観で、そんな場所から生まれた「タンタンメン」が、川崎のソウルフードでないわけけがないという勝手な思い込みが、理由であるといえば理由である。
 かつて京急沿線に住んでいた私にとって、八丁畷駅はただ通り過ぎる駅だったが、はじめて降りたこの街は小洒落たマンションなどが建ち並び、どこにでもある私鉄沿線の街という印象だった。しかし、少し奥に入るとまだ昭和の萎びた風景が現れる。こういった歴史のある場所は行政のテコ入れも後回しにされてしまい、やはり<氣>というものはなかなか消えるものでなく、どことなく街に湿ったグレーさが残っているなと感じるのは私だけだろうか。京町店(何故か本店とは謳っていない)は京町通りを10分ほど行ったところにあった。
 見た目地方のバイパス通り沿いの駐車場があるラーメン店の雰囲気。ランチ時に行ってしまったためか駐車場は満車状態。これは待たされるかなと思ったが、店内広く、カウンターに着席、まずはメニューを広げると、ラーメン屋と思いきや焼肉まである。そして酒のツマミも多く、呑兵衛の私はつい誘惑されそうになるが、そこはタンタンメンの取材だということで麺類の頁に目を移動(幸い?コロナ渦で酒類提供禁止)。さすがにトップはタンタンメン。普通、ちょい辛、お大辛、激辛とチョイスできるが迷わず、まずは大辛(一般読者のために普通にすれば良かったのであるースイマセン)にする。また、にんにく増し、バター、ニラ、ザーサイ、チャーシュー、もやし等追加トッピングも多い。私はザーサイを追加。それに味噌餃子(これ酒のツマミには最高かも)を注文。待つこと10分で登場する。
 真っ赤に染まったスープに溶き卵。こりゃ辛そうだと思いながら一口スープを啜る。舌に来る辛さではない。麺は加水が少ない白い中太で、丸麺でスパゲッティを思わせる。辛くはないが啜っていると、ジワジワと顔から薄っすらと汗が噴き出してくる。これは私の好きなテグタン、ユッケジャンラーメンではないかと気づく、そこで焼肉もあるのも納得。最初は日式(日本式)タンタンメン(40年ぐらいに本格四川担々麺が入る前に私たちが食べていた。すりゴマが入ってない溶き卵スープに辣油が覆ってあるだけのものー辛さ普通はそんな感じなのかな)が出て来ると想像したが、なんだか妙に納得している自分がいた。これは旨いテグタン、ユッケジャンスープを出していた焼肉屋(きっと当然在日朝鮮人の方だと思う)がそれに麺を入れて出したら、地域住民に大好評でいつのまにかこのタンタンメンが主になってしまったというのが結末なのだろうか。とにかく旨辛は癖になる。そして、テグタン、ユッケジャンラーメンを「元祖ニュータンタンメン本舗」とネーミングしたのもヒットに繋がったのではないかと分析するのだが、いかがだろうか。
 店を出て、駅までの間、旨そうな「ホルモン屋」が多く目についたが(そういえば川崎コリアタウンがある桜本も近い)、「孤独のグルメ」で紹介された「焼肉つるや」もこの地域にあるということを思い出した。そして「元祖タンタンメン」のルーツが私の頭の中で明瞭に広がりだしたのである。発祥地に行くと見えてくるものがあるのだなあーと、この歳でどことなく刑事の「現場百遍」の意味も分かってきたような気がする(ほんまかいな)。

「元祖ニュータンタンメン本舗」京町店(本店)
所在地:神奈川県川崎市川崎区京町
    1丁目18−7
JR南武線/川崎新町駅 徒歩6分(470m)
JR南武線/八丁畷駅(中央口) 徒歩10分(780m)
京急本線/鶴見市場駅(出入口1) 徒歩12分(930m)
電話:044-366-2180

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