No.30 山形県内陸部の「ひっぱり」の十郎レシピ

 「ひっぱり」という言葉を聞いたことがあるだろうか。「何それ」と返答する人がほとんどでしょう。この「ひっぱり」山形県の内陸部(特に村山地方)で食される料理のことで、私のソウルフードでもある。ただ、料理などという大それたものでなく、家で釜揚げうどんを食べる感覚と言ったほうが分かりやすいかもしれない。山形では「ひっぱりうどん」や「引摺りうどん」と呼ばれているが、我が家庭では「ひっぱり」はうどんだけではなく、乾麺、生麺なら、蕎麦(蕎麦は少し違ってダメかも)以外はうどん、きしめん、そうめん、らーめん何でもごじゃれだったので、総称して「ひっぱり」と呼んでいた。私の母親が山形県村山市楯岡冨並(「十四代」という銘酒を出している蔵元高木酒造は母親の実家の前です)という超ド田舎出身だったので、私は物心ついた時から、この地方のソウルフード「ひっぱり」を食べさせられ育ち、一人になっても食べ続けているので彼是55年近く食べていることになる。それではこの「ひっぱり」とはどんな料理か? 少し先述したが、ただ鍋でお湯を沸かし、そこに乾麺、生麺を入れ茹で上がったら、自分で好き勝手な汁(ツユ)を作り食べるという何とも安易で簡便な食べ物なのである。

 要はつけ麺、釜揚げうどんの家庭版なのだが、好きなように汁を作れるので外食のつけ麺や釜揚げうどんの汁(ツユ)のように単調ではなく、味変し放題なので飽きがこないという代物。また、自宅に何もない時に重宝する食べ物なのである(単身者には特にお勧め)。だいたい家に何もないと言っても、乾麺ぐらいは置いてあるのではないだろうか。そして、汁(ツユ)は冷蔵庫やその周辺にあるもの何でもよろしいので、好きなものを探って作る。例えば、醤油、ネギ、玉子、海苔、バター、マーガリン、納豆、ツナ缶、花ガツオ、とろとろ昆布、サバ缶、ハム、ソーセージ、揚げ玉、諸々何でも良い、自分が付けて食べたら塩梅いいなと思えば何でもいいのである、ただそれだけ。中にこれを紹介しても、汁(ツユ)が作れない応用力がない輩がいて、そんな人間はもういいから常に出来合いのもの食べていてけらっしゃい(山形弁)。
 もう少し分かりやすくするために、私のある日の「ひっぱり」レシピをご紹介しよう。

●麺
そうめん(揖保乃糸)2束<自分の食べられる分だけ>(鍋で1分30秒煮る)

●汁(ツユ)
ツナ缶1缶
バター(1切)
揚げ玉

納豆
生玉子
焼き海苔
醤油、だし醤油等(No.14「うまいたれ」もいいんじゃないかな
うまみ調味料(味の素)<これが味に深味をあたえるのだ―これがないと、最近よくある創作ラーメン屋の抜けた<屁>のようなスープになる。それを素材の味が分かると言って食通を気取っている輩も多いから悲しくなる(臭い焼き鳥を気どって塩で食っているアホと同じ)―漫画『美味しんぼ』の悪影響がまだまだ続いている>

 調味料(あるものならなんでもいい好きなものを味変に―ラー油、胡椒、ニンニク、ショウガ他)

 汁(ツユ)は、はじめに「うまいたれ」を入れ、ツナとバター、揚げ玉、焼き海苔を、そしてうまみ調味料を少々振りかける。鍋のお湯をタレの調整のために入れる。出来た汁に茹でたそうめんをそれに付け食す。その味に飽きたら今度は納豆を入れ、途中生玉子を入れても結構。どうです簡単でしょ。西洋風にしたいのならケチャップにうまみ調味料を入れ、ソースや洋からしニンニクなどを混ぜ絡ませて食べてもOK(それが旨ければね)、こんな簡単な料理(?)、私は皆さん食べていると思ったのですが全然浸透してないのは山形県内陸部の素朴な人間の宣伝下手が影響しているのかもしれない。いや、山形県の食材*など使ってないので、宣伝しても山形県に何の見返りもないからかな。ただかつて食通でならした俳優の故梅宮辰夫が、この「ひっぱり」に感動して毎日のように食べていると言っていた。さすが食通の辰兄、わかる人にはわかるのである。
 このコロナ渦の巣篭っている時間が多い現在、この「ひっぱり」は特にいいのではと思うのである。麺食いよ、自分の汁(ツユ)を創作して引摺ってくれ。きっと病みつきになること請け合いである。

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