No.40 福岡県福岡市即席ラーメン「これだ」は、豚骨ではなく醤油?アッと驚くタメゴローとはこのことだ!

 前々回(No.38「うまかっちゃん」)を余りに扱き下ろし過ぎ、というお叱りを大分出身の友人から受けたのですが、扱き下ろしたのではなく、これじゃなきゃダメと言うほどのものじゃないだろう、と言ったのであり、そこのところどうぞよろしくである。
 九州豚骨ラーメンについては、今度また九州に行った時にでも語りたいので、今回はそれと関連した地方の醤油文化について、はじめに語りたいと思うのである
 結論から言うと、あのタマリ醤油のことである。このタマリ醤油現存しているのは西日本に多いのだが、西日本が塩文化、東日本が醤油文化になったのは、ひとえにこのタマリ醤油に起因しているのではないか。ご存じのように江戸時代、西日本から「下ってくるもの」が全てにおいて優秀で、関東で作られたものは「下らないもの」と馬鹿にされていたのだが、江戸末期東日本にも西日本に匹敵、いやそれ以上のもの「下らなくないもの」が作られたのであった。それが「味噌と醤油」である。
 明治のはじめに東京に移った正岡子規は「こっち(東京)は自分の故郷(愛媛県松山市)に比べ、食べ物はたいしたことがないが、味噌と醤油だけは旨い」と、さすが近代俳句の父であり、健啖家だけある子規は鋭く「当たり」の発言をしている。この発言は現在でも生きているのである。現在でこそ関東系(銚子、野田や舘林)の醤油は全国区になっただろうが?この醤油で育った人間には、地方で生産された醤油が出ると如何ともしがたい悲しみを感じるのである。食事にタマリ醤油が顔を出したら、その日の楽しみが半減してしまうと言ってよい人は多いような気が‘するのだが、如何だろうか。
 小さな頃、父(愛知県常滑市)母(山形県村山市)の田舎に行くと、醤油のマズさに閉口し、食事が嫌で嫌でしょうがなかったのを記憶している。今から思うと東京の醤油を持っていけば良いのだが、その当時はそんな頭は働かなかったのである。
 また、これは前々回でも話した北九州の出来事だが、時間があったので、街中の餃子の専門店に入ったのであるが、そこには醤油が存在してなかったのである。酢胡椒をつけて食えということだが、一、二個はそれで美味しいと思うが、全部酢で食えとは。この時九州人は醤油が本当に嫌いなのだなと思ったものである。後でよく考えると、彼等はタマリ醤油なので醤油を避けているのではと、タマリ醤油と酢と辣油では、こりゃダメだわな。また、北九州の友人が帰りに「北九州一番人気の豚まんだから美味しいよ」と肉まんを買ってきてくれたのであるが、一口甘い、肉まんがお菓子になっていたのには閉口したものである。さすがに「マズイ」とはいえず、「甘いね」と言うと、「醤油が入っているからね」との返答。やはり彼らは(九州人)醤油は甘いものなのかと納得した次第である(ということは醤油を嫌いではない?)。「醤油=タマリ=甘い」が彼らの醤油のイメージなのは確かなようなのである。故に、さすがに甘いラーメンは食べたくないというのが醤油ラーメンに対する嫌悪感なのではないかと憶測した次第である(醤油ラーメンは甘い?)。これが帰納的に証拠にはなるとは思わないが、愛知の私の叔母はタマリ醤油の味が全ての醤油の味だとバイアスがかかったまま死んでいったのではないかと思う(時はたったが正岡子規より味音痴だったということか)。私の家に遊びに来た時、刺身に関東の醤油をつけて食べた糖尿の叔母の感想は「辛くて濃くがないわね」というものだった(いや、その時、洗練されているのだよと心の中で呟いている私が隣にいた)。このタマリ醤油、煮物などに使用するのには良いと思う。私は一番合っていると思うのはウナギの蒲焼きのタレである。どうも関東のタレ、品は良いが甘味がないのが欠点のような気がする。故にラーメン等には会うのである。またタマリは伊勢うどんにはピッタリはまっている。だらだらと書いたが、どうも日本人は醤油を侮っているのではないかというより、余りにも身近にあるので日本語と同じように等閑(なおざり)し過ぎるように思うので書かせていただいた。「たかが醤油、されど醤油である」
 そして九州人が醤油の嫌いな理由が、何となく薄っすらと解明できたと思っていた時、突然目の前に現れたのが、何と、本日紹介する即席ラーメン「これだ」なのである。何とこの即席麺「醤油味」であるとともに、九州(福岡県)のご当地麺で、そして製造しているのが、「棒らーめん」で有名な株会社マルタイなのである。あの醤油ラーメンに抵抗力のある九州人に、ど真ん中に「これだ」と言って、醤油ラーメンを出す、このプロテクト精神、いやイロニー(皮肉)に私は感動したと同時に、あの今や全国区に轟いてる「棒ラーメン」のマルタイなら、パッケージこそ貧相だが(ある面インパクトがある)、何かやってくれているとの予感が…。早速食してみた。
 お湯を沸かし、麺を入れること4分、どんぶりに移すと、あれパッケージ写真と随分違う実物が登場する。ほのかに醤油のような色合いだが、いや違う、完全に塩ラーメンに近い。なんでパッケージ通りの醤油の色を全面に押し出さないのか。さて食してみると、やはりマルタイが製造したものだということが、マルタイ食品に親しんでいる人にはわかる、あの「棒ラーメン」のスープを落ち着かせた味と形容したらよいようなスープが口の中に広がったのであった。明らかにこれは私たちが関東で馴染んでいる醤油ラーメンとは違うのである。期待していたのとは違い少しガッカリしながら、しばし、窓外を見つめ考え込んでしまったのである。やはり九州人には、相当醤油に抵抗があるのだなと、醤油ラーメンと謳いながらこの有様であると、マルタイの前衛的姿勢に拍手を送ろうと思っていた私が悪かったのであると反省したのである。また、それと同時に、この「これだ」というド直球で、いい加減なネーミングがよく幹部会議で通ったなと、また、ある種、マルタイの度量の深さに感心しながら、もう一度パッケージを眺めていると、アレ、どこにも「醤油」などと謳ってないことに気づきスート気力が落ちてきたのである。そして、マルタイさん、紛らわしい袋作らないでよと、呟いている早とちりで勝手なバカオジサンがそこにいたのである。

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株式会社マルタイ
英訳名:MARUTAI CO.,LTD.
設立:昭和35年6月1日(創業昭和22年5月)
本社所在地:福岡県福岡市西区今宿青木1042-1
電話:092-807-0711(代表)