No.73 神奈川県藤沢市の「中華大新」の大新ラーメンとやわらかい焼きそばを食べながら「50年問題」を考える

 町中華がどんどん消滅していっているそうだ。これを「50年問題」と言うらしいが、高度経済成長(60年代後半から70年代後半)期にゾクゾクと開店した日式「中華屋」のオナーの高齢化による後継者問題が一番の要因である。厳しい資本主義経済の中、50年以上も地域で継続できた「中華屋さん」なのであるから、味は確かなのは当たり前であるが、それ以上に、その店が醸し出す<氣>が、お客を誘ったのである。その<氣>が消えうせるのは何とも悲しいが、これも世の無常のなせる姿と、諦観しなければならないのが辛いところである。
 私たち60代以上の年齢なら誰しも、懐かしの町中華の記憶が残っているだろうし、現にまだ通い続けている幸福な方もいるだろうと思う。この東京漂流者のオジサンにも、塒(ねぐら)にした先々に思い出の町中華がある。まず幼少から中学生までの足立区花畑の「正華」(五反野の駅前が本店でその支店)、中野江古田の大学時代の下宿そばの青城飯店(生姜焼きが滅茶旨の店)。社会人1年目で住んだ東小金井の「宝華」(初めて油そばを食べた店。今でも一番旨い油そばを食べさせる店だと思っている。-No.15で紹介)、会社経営者時代に住んだ東中野の「十番」(No.52で紹介)、そして、一番長く住んだ横須賀馬堀海岸の実家そばの静華食堂(あんかけ類が絶妙だった)。そして現在はと言えば、一番親しんでいた御徒町の「民華」(ここは何でも旨かった)が火災に合い、それ以降商いを止めてしまい、記憶に残りそうな店との縁は出来ていない。というか、そもそも棺桶に片足を突っ込んでいる人間に、思いで作りも何もないだろう。とそれこそ諦観しているのである。しかし、私の紹介した思い出の店が、まだまだ健在で、何とも頼もしいとともに、私の舌利き?も間違いないなと、よく分からい自信に浸っているのである。バカですね。
 そんな現況の中、本日は横浜の大学の秋学期の講義も終わり、打ち上げと称して、講義を手伝っていただいているデザイナーと一緒に湘南地区で一杯と相成った。名目は打ち上げなのだが、藤沢のソウルフードと言われる一品を食すという目的もありなんす。
 まずは、江ノ電第2ビルの地下にある寿司居酒屋「七福」で半年間ご苦労さんと乾杯。疲れを癒す(別に肉体労働ではないので、それほど疲れませんが、精神的な疲労はあるかな)。ここは居酒屋を紹介するブログではないので、簡単にさせていただきますが、藤沢は、湘南一を誇る町ながら、昼飲みが出来る店が少ない町だそうで(健全な人が多いのですねーイヤミです)、その少ない中の一軒がこの店。値段はリーズナブルで、何とでもしてくれ感があって好きな店でした。隣で藤沢夫人が二人で飲んでいました(しかし、よく話す人たちでした)。
 ということで、その店で軽く4、5杯飲んで(軽くねーよ)、目的の藤沢ソウルフードへ。

 それは1973年に藤沢駅南口で創業して以来50年以上多くの人に愛されている中華料理「中華大新」の大新ラーメン。藤沢駅南口を出てすぐの場所にある。因みに大船と茅ヶ崎に支店がある。何故ソウルフードなのか、小さい頃から、大新ラーメンか、もう一つの中華屋「古久屋」のサンマーメンを食べて育つと言われるほど、この両ラーメンは藤沢市民に愛されているそうなのである。今回は大新ラーメンを取り上げさせていただいたが、次の機会には「古久屋」のサンマーメンも紹介さえていただこうと思っている。
 一軒目の居酒屋からもすぐの場所で、早々とビルの2階の「中華大新」を発見。大文字で「大新」と赤い看板は煌々と輝いている。階段に上がり、ガラス扉を開け店内へ。正面に4人掛けのテーブルが3つ、右奥にカウンター席が9つ。店内はさほど大きくない。時間は夕方5時前で、店内はテーブルに2組ほどで、入口に近い4人掛けテーブルに着席。
 卓上メニューを眺めながら、注文の品定め、というか、〆のメニューは決まっているのである。〆は大新ラーメン(800円)とやわらかいやきそば(890円)なのである。それ以上も以下もないのである。この原稿を書くためには、これが使命なのである。
 まずは瓶ビール(600円)と餃子(490円)、それからザーサイ単品(330円)を注文し、酒を飲む。追加でツマミで麻婆豆腐(860円)。メニューを見ると本当に華僑の匂いがしない真っ当な日式「町中華」なのである。連れとオジサンが考えた湘南三大ラーメン(次の機会に紹介)の話で盛り上がりながら飲んでいると、餃子が運ばれる。私の好きな薄皮で野菜の多い、これぞ焼き餃子用日式餃子、結構結構。因みに皮が厚くて、餡が肉だけの団子になっているショーロンポーと見まがう餃子が華僑系、故に水餃子用なのである。麻婆豆腐も何も凝ってないストレートな日式麻婆豆腐。超激辛四川麻婆も大好物だが、たまに、昔の何もしてない辛くない麻婆豆腐もいいのである(町中華はこれに出会える)。

 若い人たちは、悲しいかな日式中華も華僑系中華もすでに判別が付かないらしい。私の教え子たちも全滅だった。これは親がちゃんと教えるべきなのだが、親も分からないという始末で、教育とはなんぞやということを思い知らされる毎日を送っているオジサンなのである。ジャンボハイボールやサーワ―類を飲みながら打ち上げも盛り上がったのだが、もう腹も一杯なのであった。ただこれからが仕事であると、〆メニューを注文したのである。
 腹をならす時間が欲しかったのだが、スピードが決めての中華。早々と〆2品がご登場とあいなった次第。ほんとうに食べられるのか? まずは、大新ラーメンを、ザーサイとひき肉の餡がかかった麵で、こういう餡は良く唐辛子とまぶしてあるのだが、ここは辛みがさほどない。細切りネギとホウレン草を少し載せ、麵は細麺に仕上がっている。もう少し旨辛だと、それこそもっと癖になりそうだが、きっと創業から変わらない味なのだろう、旨辛ブームが来ていても、変えないのが老舗なのである。そして、大新ラーメンとNo.1を競いあっているのが、やわらかい焼きそば、というか、こちらの方がソウルフードだと言う藤沢市民もいる。もやし、にんじん、きゃべつ、にら、キクラゲの具材が入った醤油餡が柔らかい蒸し麺の焼きそばにたっぷりかかっている。あんかけ焼きそばや皿うどんは、見た目の量に驚かされるのだが、これもかなりの量がある。食べられるのかと、危険信号がともるのだが、あらま不思議、どんどん胃の中に入っていく。腹が一杯でも、食べられるもが、ほんとうに旨いものと誰かが言っていたが、とうとう二品ともなくなってしまったのであった。藤沢市民が愛してやまない中華なのも頷けたのである。しかし、本日のオジサンのカロリーの摂取量はいかばかりなのか、自分の食欲に対する罪障感と、血糖値上昇への不安感が相まって不思議な心境になるのであるが、美味しいものが食える内が花と、また都合よく自分を慰めながら、日式「町中華」の存続の意義を改めて身に染みて感じる1日であった。

※日式「中華屋」
在日中国人や日本人が、大陸中国の影響を受けて、日本風にアレンジした中華料理を出した中華料理屋。戦前からあるが、特に戦後の高度経済成長期の日本では東京、大阪や各地に多くの日式「中華屋」が増えたが、昨今はラーメン専門店や華僑系中華料理にお客を奪われると同時に、その創業者たちの高齢化による後継問題なので、閉じる店が増えてきている。通称「町中華」とも言う。

中華大新 藤沢店
ジャンル:中華料理、ラーメン、餃子
お問い合わせ:0466-23-8833
予約可否:予約不可
住所
神奈川県藤沢市南藤沢23-10 六光会館 2F
交通手段
JR東海道線、湘南新宿ライン「藤沢駅南口」から 徒歩2分
六光会館 (ビジネスホテル相鉄フレッサインとローソン南藤沢店の向かい側のビル) の2階
藤沢駅から122m
営業時間  11:00~翌4:00
日曜営業
定休日:無休