No.2 千葉県我孫子市「弥生軒」のから揚げ蕎麦

 蕎麦にから揚げ。何とも言えないB級感だが、コロッケ蕎麦が当然のようにあるように、旨ければ問題はないのである。そんな立ち食い蕎麦屋が我孫子駅ホームにある。小さい頃の私にとって立ち食い蕎麦屋は、在ると入りたくなる店の筆頭を駄菓子屋とともに争っていた。故に私にとって立ち食い蕎麦の味は、身体に沁みついた味と言っても過言ではないだろう。外国へ行ったとして、日本食と疎遠になった場合に、最初に食べたくなる日本食は、立ち食い蕎麦か牛丼なのではないだろうかと思う。
 そんな立ち食い蕎麦好きでも知らなかったのが、この「弥生軒」のから揚げ蕎麦である。我孫子在住の人に聞くと、「我孫子住民には、立ち食い蕎麦のイメージする時は、から揚げ蕎麦のことが頭に浮かぶと思うよ」「食べたことない人いないんじゃないかな」とそれほど住民に馴染んだ食べ物だそうだ。
 これはぜひとも食さなければと、南千住から常磐線で30分ばかしかけ我孫子駅へ。駅を降りるとちょうど目の前「弥生軒」があり、中に入ると4名ほどの木のカウンターが両端にあり、向いが厨房になっていた。食券機でから揚げ蕎麦の食券を、さすが一番先頭のボタンがから揚げ蕎麦で隣がから揚げW(二つ)のボタン。人気のほどが伺える。
 客は私の他に一人、後から、高校生らしき男子が二人ほど入ってきた。
 数分ほどして厨房の前にから揚げ蕎麦が現れる。それをカウンターに持ってまずは眺める。イメージしていたから揚げとは違い、太くて長いから揚げがかけ蕎麦の上に、蕎麦は立ち食い蕎麦屋によくあるそば粉6、うどん粉4ぐらいの蕎麦、汁は関東風の濃い目の汁で目新しさはない。しかし、このから揚げは他に食したことのない、ジャンキーなから揚げで、衣にサクサク感はないが、独得の香ばしさがある。鶏肉は癖のないもも肉である。このから揚げを汁に浸して食べると、またオツな味なのである。このから揚げは中毒性になるなと、思っていると、から揚げを五つテイクアウトで持っていくお客がいた。
 この駅周辺の住民は、から揚げといえば、ケンタッキーではなく、「弥生軒」のから揚げなのかもしれないと、何の確証のないことを思い浮かべ店を出た。
 「弥生軒」の創業は1928(昭和3)年で、当初は駅弁を売っていたそうだ。駅弁屋時代の1942年から5年間、画家の山下清が勤務していたことは有名で、山下が著名になった後、本人に連絡を取って駅弁の掛紙用に絵を描いてもらたのだが、絵は四季の4種類の予定だったが、最後の「冬」を描く前に山下は他界してしまったそうである。立ち食い蕎麦店は1967年に営業を始め、2018年時点では我孫子駅と天王台駅で合計4店舗を構えている。
 因みに、から揚げ蕎麦は平成の始め(1990年)頃から出しているそうで、まあ30年も周辺住民が食べているのだからソウルフードと認定してもいいのではと選ばせていただいた

「弥生軒」JR常磐線我孫子駅・天王台駅ホーム