No.33 東京都八王子市「竹の家」の元祖八王子のラーメン

 前回「おつけだんご」(No.32)を食せないまま、大月駅で上りの電車を待っていると、山梨県を越え東京都に入ると酒が飲めなくなるという淋しさがつのり、オジサンはつい駅で角ハイボール缶(濃いめ)と乾きものツマミを買ってしまったのだった。そして、電車に乗り込みチビリチビリ酒を飲み、この感染症の規制の世の中があって皮肉にも外で酒を飲むことの喜びをこんなにも実感できるとは。マイナス(陰)は必ず何かプラス(陽)を抱えている(逆もしかり)という古代中国思想『易経』の教えは確かに正鵠を射てると、要らぬ妄想に浸りながら窓外を眺めるのであった。しかし、そんな悠長なことを考えてこのまま帰路についてしまったら末代の恥になると、ふと思い出したのが八王子の「竹の家」のラーメンだった。    
 早速営業していることをネット情報で得て、八王子駅で途中下車することを決断した(決断するほど大それていないが)。
 八王子駅の北口を出て、富士見通りを左にドンキホーテを越えてすぐ右側と指示。一度仕事で来ただけの不慣れな街を眺めると、田中角栄の列島改造の成功の証、日本全国どこにでもある相似形の駅前。そしてお店も、前述ドンキホーテを筆頭に、ユニクロ、マツキヨの他どこへ降りても金太郎飴のような同じ顔をして存在する数々のファストフード店が犇めきあっている。まさにこれが小泉純一郎と竹中平蔵の口先コンビが叫んだ規制緩和の行きついた姿なのである(何と大手企業はより大きく、中小企業はより小さくするための改革だったとは気づきませんでした)。
 そんなことを考えながら、凡庸な八王子の街(富士見通り)を歩くと、右側に街の風景とは一線を画す佇まいの店があった。それが何と、「竹の家」だった。昭和感を漂わせた店構えは、こりゃ間違いないと自ら主張しているようにも感じる。華僑系中華店には絶対にない味わいである。入らざるをえないだろうとこちらを誘い込む<氣>の発散は只者ではないのである。
 暖簾を潜ると、時分時でもないのに(14時30分)7割の入り、店は縦に長く、前にカウンター10席ほど、奥に20人ぐらいのテーブル席あり、最初にレジ前でチケットを買うシステム、ラーメン(580円)とチャーシューメン(880円)を注文。潔いのは餃子や飯物がないラーメン一点張りの店なことである。
 奥の四人掛けのテーブル席に腰を下ろす。朝の大月の「おつけだんご」とは違い事がダンチにスムーズに運ぶ。やっと運が向いてきたのだろうか。この瞬間に馬券でも買えばと邪な気持ちが湧き出て、席に着くとすぐさまJRAネット投票を見る。何と残金が1,000円ほどしかなかったが全部を東京10R御宿特別馬単11-3の1点勝負に賭ける。
 この店を何故紹介するのか、まず八王子で60年以上一番の老舗とのこと、八王子のラーメンと聞くとすぐ思い浮かぶのは玉ねぎのみじん切りが乗った「八王子ラーメン」だろうが、この「竹の家」のラーメンはそんな奇を衒ったものでなく昔ながらの関東風の「中華そば」といえるもの。昔からの市民はこちらを愛し続けているらしく、「八王子ラーメン」などというのは新参者らしいということが分かったからである。そういうことを聞いたら食べざるをえないのがオジサンの性(サガ)なのである。
 10分ほどで注文の品が到着。「昔ながらの中華そば」という表現しかしようのないラーメンが登場。まずはスープを啜る。鳥ガラに魚介ダシの濃い醤油味だが、見た目よりアッサリしている。私は魚介の強い風味が苦手なのだがこれは許容範囲である。麺は少し太めの縮れ麺。この縮れ麺には市民の拘りがあり、縮れが弱い時と強い時をちゃんと舌で観察しており、弱い時には二代目店主の身体が不調なのではないかと心配するほどだそうだ(これぞソウル)。チャーシューは薄いが大きくシッカリしたスキのないもので良い塩梅である。
 これは飽きずにズ~っと食べ続けていけるラーメンのような気がする。八王子を訪問のさいは、またぜひ食べようと思う(今度はいつになることやら)。
 街がどこも金太郎飴のように同じ面構えになっていくと同時に、このような何でもないラーメンが少なくなってきているのは悲しい限りである。これからも通りに異彩を放ちながら、八王子市民のためにズ~っと続けて欲しいものである。
 店を出て、競馬の結果を見る。何と馬単3-11裏目でハズレ。残金1,000円で良かったのである。お金があればあっただけそのままつぎ込んでしまう男である。やはり運があったのだなと、太平楽なバカ男は駅に向かって歩くであった。

竹の家 (たけのや)ラーメン
住所:東京都八王子市中町4-2
八王子駅から366m
電話:042-642-5450
営業時間:10:00~19:30
定休日:毎週水曜日・第3木曜日
日曜営業

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