No.41 東京都台東区上野のカレー専門店「クラウンエース」はアッパレの潔さで復活。

 日本のファストフードの帝王・立ち食い蕎麦屋に匹敵するのが、女王・スタンドカレーだろうことは誰もが異存がないだろうと思う。両者は早い、安い、普通の味をポリシーに(三番目を謳っている店はない)、庶民に日夜エネルギーを与えてくれている頼もしい存在なのである。
 本日紹介する「クラウンエース」も昭和48(1973)年創業(パンダが上野動物園に来た1年後)で、50年以上も上野を行き交う人の腹を満たしてきた上野の顔と言っても過言ではないスタンドカレー店である。
 上野駅南口を出て、丸井方面(御徒町方面)に向かって、中央通りを信号待ちしながら、右手の京浜東北線高架を眺めると、右から「じゅらく」「つるせ(蕎麦屋)」「スギノドラック」「ユニクロ」「クラウンエース」と昭和と平成がミングルした店が整然と並び、王冠が入ったカレー専門店と文字が入った黄色い看板が視野に入ってくる。聚楽ビルなき後(店は細々とやってますが)、今や私にとって上野を象徴するものは悲しいかなこの黄色看板の「クラウンエース」と浅草口にある蕎麦屋の「翁庵」だけになってしまった。ひょっとするとこの店、現在有象無象にある都会のスタンドカレーの先駆け的な店ではないかと思う。ところが象徴していると言いながら、私にとっては、この店少年の時に数回と40代の時に余りにも腹が減ったので「クラウン」でもいいかと入ったのが最後で、この20年間は横を通り過ぎるだけだった。故に本音を言えば、どうでも良いと言えばどうでも良い店だったかもしれない。しかし、「クラウンエース」が閉店(2021年1月)との噂を聞いた時は、また上野の街の小景も変わるのか、昭和もどんどん遠くなっていくなーと、そして、あの王冠の黄色い看板とディスプレイだけが頭の記憶に残るのかと、無常感で一抹の淋しさを感じたものである。まったく、普段お店に協力してない人間に限ってこう言った感傷的なことを言うので(人間って嫌ですね)、余り信用しないで下さい。
 ところが、その後、上野に何回か行くと、「クラウンエース」堂々と営業しているではないか? 調べると4月に復活開店したということ、安堵はしたが、店に行く気もない私がいたのである。そして本日、20数年ぶりに、「クラウンエース」に入店する機会を得たのである(そんな大仰ではない)。11時開店と同時に久しぶりにディスプレイを眺め、あれ、私の好きなウィンナーがないなあと、ちょっと心配になりながらも店内に、チケット自販機でメニューを物色。店内を見渡すと、かなり20年前の印象と違う。壁に向かったカウンター8席と真ん中に4人掛けのカウンターが2つあるだけで随分すっきりしてしまった。そして現在は感染対策で、半分ほど席は不使用状態。以前は丸いカウンターで、その中に定年退職者の雇用救済施設かなと思わせるような60歳以上のオジサンが緩慢な動きで接客をしていたような気がしたのだが。メニューも特選カレー(450円)、ハンバーグカレー(550円)、カツカレー(570円)とトッピングにチーズ(100円)だけと、かなりスッキリしてしまう。昔はカレーはチキン、ポーク、ビーフがあり、コロッケやから揚げ等もあったのである。ウィンナーは消滅したのかな残念(40年前はあったような)。
 まずは、一番人気のカツカレーのチケットを購入。接客の人にチケットを渡し、水はセルフのため自動水道機でコップに入れ席に向かう。壁側の一番端の椅子に座り、待つこと5分。カツカレーが到着。隣の不使用席のテーブルに薬味のラッキョウと福神漬けのケース、それからウスターソースが置いてある(これがなければダメなのである)。両方の薬味をどっさり乗せ、カツにソースをタップリ掛け(これがスタンド流)、まずは一口。オー、素晴らしく何でもない味である。ただ家庭の味とも違う。間違えなくプロの味であるが、甘くも辛くもない、カレーの味だろうか、デミグラスソースのような味にも感じる。これぞ普通の味というか、何でもない味である。ここまで何でもない普通の味を作ろうとしても何か技術がなければ逆に作れないのではないと思わせる味。これは決して皮肉ではない。小さい頃から数回だが、この店のカレーを食べたが全然印象に残ってないことの理由が初めて解明できたように思う(リニューアルでカレーの味が変わっていなければの話だけれども多分変わってないだろう)。付け合わせのラッキョウと福神漬けをタップリとまぶして食べると、また、素晴らしくどうでも良い味になって結構である。カツは言わずもがな、肉は薄くって最高である。これも皮肉ではございません。良く肉が薄いなどと文句を言う輩がいるが、高級とんかつ屋ではないのである。この値段である。どうせ質の悪い肉を使っているのであるから、厚くて千切れないで臭かったらカレーも旨くなくなると思うのである。それならば薄くて、すぐに喉に通るカツが良いのである。それを衣にソースをタップリつけてカレーとミングルして食べるのがスタンドカレー食いの黒帯だと思うのだがいかがであろうか。今回、この店を訪れ、ぎりぎりまで削ぎ落してシンプルにし、潔く、単純に商品を提供することの見本を見せていただき気分よく店を出た(滞留時間20分)。店は引っ切り無しに人が入っていくのでまずまず今後閉店ということはないだろう。上野、浅草等、下町は接客に難がある場所が多いが、シンプルにした分か接客も悪くなかった。この「店」と前述「つるせ(蕎麦屋)」は、上京東北人の初めての東京の味と言われ、評判も様々だが(東北人で私の東京の味は「クラウンエース」の味であるという人も多いような―いないかな)、上野のB級グルメの伝統を今後も守り続けていっていただきたい店なのは確かなようだ。
 因みに、「クラウンエース」「サカエヤ(待ち時間0分)」「ニューラホール竹町店」が上野御徒町3大スタンドカレーとオジサンは名付けている。

カレー専門店 クラウンエース 上野アメ横店
住所:東京都台東区上野6丁目12−11
営業時間:月・火・木・金・土
11時00分~14時00分
16時00分~19時00分
日曜日:11時00分~15時00分
定休日:水曜日

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