No.52 東京都中野区東中野の「十番」のビールとタンギョウは神々しい三種の神器。

 自称東京漂流者の私も、終の棲家を見つけなければならない歳になったのだが、どうも昔から奥手で決断力のない性質で先延しにして現在に至っている。同じように死ぬのも先延ばしになれば結構なことだなとバカなことを妄想しながら生きているのだが、最近は、さすが人生のゴールが近づいてきているのだろう、 過去のことを振り返り懐かしむことが多く、どうも先のことを考えたくないというのがほうとうの先延ばしの原因のような気もするが。ただ人生が後ろ向きになっただけなのだろう…。
 本日紹介する「十番」も、過去に1年ほど在住した懐かしい東中野にある老舗中華屋さんである。この土地でチョマチョマ暮らしていたのは18年ほど前だが、転々と移り住んだ東京の中でもかなり住み心地の良い場所だったように思う。それは新宿から二駅という利便性もさることながら駅前四方200メートル圏内が瀟洒にまとまり移動がしやすいことに尽きるように感じる。まあ、単純に小さな街だということだが、そんなに突飛で、尖った店もなく、昔ながらの店が立ち並ぶ穏やかな街の風情が良かったからかもしれない。中央線の穴場という言葉がぴったりな場所なのは確かなのである(若い人は中野や高円寺、西荻、吉祥寺等に目が行きがちで、この街をスルーする)。
 そんな東中野に、この原稿を書くために何十年かぶりで訪れたのであるが、山手通り沿いの西口は開発で様変わりして、駅ビルなんぞがあるのに驚いたが、ブラブラと周囲を歩いたが、あらま、その他は余り変化がないのに一安心。良く通ったいくつかの店(大盛軒<鉄板麺>、洋食ドナルド蕎麦寿美吉)は、まだまだ元気に営業しており、ミニシアターポレポレも映画ファンのためにマニヤックな映画を上映していたし、銭湯アクア東中野も変わらずにあったのだが、この街の安定感に頭が下がる思いである。これだけ、小さくまとまっている街だと、それほど大変化もしづらいということもあるだろうが…。そんな中でも温泉街的な風情を残していた東口の東中野駅前商店会はもはや風前の灯火で、数軒だけが地上げに対抗し?残っているという状態だった。あーそれから、どうでもよいのだが、私のかつて住処(すみか)の側(そば)にあった阪神タイガース応援団御用達の居酒屋もすでに存在していなかった(どこへ行ってしまったのやら)。
 そして、本日ご紹介するのが、東中野では、もう老舗中の老舗と言って間違いではないだろう中華「十番」。ここ「十番」のタンメンと餃子を東中野の住民で食べたことがない人はいないのではと思わせるほどここでは一番有名な店と言っても間違いないのではないか。近くに明大中野高校があるので、学生の御用達の店でもある。かつて高校の相撲部の貴花田兄弟も仲良く食べに来ていたそうだ。駅西口に降り、山手通りを越えると東中野銀座商店街という長い商店があり(ここも変わらない商店街である)、1~2分ぐらい歩くと左側に黄色い装いで赤い看板の「十番」がある。リニューアルしたのであろう、かつてとは少し店の趣きが違うが、変化したのはそれだけのような気がする。土曜の19時で店は満員、2~3組5人ほどが列をなしていた。やはり変わらずの人気である。10分ほどで入店。カウンターが数席と4人掛けの卓(テーブル)三つ。店の活気も以前と変わらない。ただ、今は息子さんの代になっているらしく40代ぐらい男性二人が厨房にいる。そして、お母さんが、接客を。上手く代替わりに成功したのだろう喜ばしいことである。ジャージャー麺(660円)も食べたいところだが(ここのジャージャー麺は風変りで癖になる代物)、定番のタンメン(630円)と餃子(370円)を注文。実はオジサン、タンメンは余り好きではないのだが、ここのは別格。10分で品が両方共到着。まずは餃子を口に入れる。揚げ餃子と言ってよい感覚なのがここの餃子。そしてタンメンだがアッサリ系ではなく濃厚系で食べ応えがある。麺は中太のストレート麺で、それがまた結構なのである。ビールは飲まなかったが、ここにビールを追加すると餃子とタンメンは三種の神器と言いたいほど神々しい物になる。若い頃なら、ここに、これも評判の炒飯(630円)も加えるのだが、さすがに、タンメンのカロリーが少ないとはゆえ、この歳で、糖尿病では「ダメダメねー」だろうな。
 実はここ来る前に近くの「うなぎ串くりから」で大好きなうなぎ串を肴に一杯引っかけているのでここは〆、ビールは我慢したのだった…。飲んだ後のラーメン、これ糖尿病の人間には一番危険な行為だろう。食べるのは命がけになるのに、何故もっと大事なことで命がけにならないのか、と反省しながら最後の餃子を一口に入れて店を出でたのであった。そして店を出て、あー東中野から離れてよかったとツクヅク思い駅に向かったのであった。

十番(ジュウバン)
餃子、ラーメン、中華料理
電話:03-3371-0010 
予約不可
住所:東京都中野区東中野3-7-26
交通手段
JR中央線「東中野」駅(西口)から徒歩2分東中野駅から72m
営業時間
11:30~14:00 17:00~20:30
※材料切れ次第終了
定休日:水曜、第2・第4木曜