青春と言える年齢はとうに過ぎたが、元気なオジサンは<シルバー青春>を楽しむべきJRの青春18きっぷ*なるものを初購入。まずは日帰りで伊豆の伊東にでも足を運び、伊東のソウルフードでも探そうかと、早起きをして6時20分の東海道線熱海行に乗車したのであった。熱海には何度か訪れたことがあるが、伊東は幼児の時に家族でハトヤホテルに泊り、私には記憶にないのだが、お風呂で〇〇チをしてしまう<〇〇チ事件>を起こし、成長期に、ズーっと家族にハトヤ<〇〇チ>と言われつづけたため、伊東という記号には、何となく<恥辱>の入り混じった<トラウマ>を感じてしまうのである。そして50数年ぶりにその<トラウマ>伊東に向かったのである。食の記事に食欲を失わせるようなマクラで申し訳ございません。
もとい、まずは8時20分に熱海に到着し、そこからJR伊東線に乗り換えるのだが、改札から少し熱海の駅前を覗き見る。熱海には様々な思い出があるのだが(借金依頼で、この駅に降り立ったこともあった)、20年振りの熱海の駅前風景は、あの頃に比べると、どことなく活気を取り戻したように感じる(あの頃は自分と同じで、街が<終わった>感を醸し出していた)。特別列車のような風変りな電車に乗り換えると(下田キンメダイ列車?)、お盆休み明けの月曜なのに車内は多くの乗客で賑わっている。15分ほどで伊東駅に到着。さすが伊東、ゾロゾロと多くの人が下車する。海風のせいか、幾分都会と温度差があるような。改札を出て、駅前ロータリーを見渡すがどこにでもある凡庸な地方駅前風景であり、温泉街という風情はない。学生の時に訪れた熱川のほうが風趣あったような…。昔は、駅を降りると多くの旅館の番頭さんが、旗を持って客待ちしているのが温泉街だったが、令和にはそのようなその光景はないのである。
そんなことはまあしゃーないが、まずは下調べをしていて(怠惰な私もさすがに地方へ行く時は事前調査をしている)知った昭和21年から営業の弁当屋「祇園」の「いなり弁当」の販売所を探す。いな探さずとも、さすが77年近く伊東駅で営業している駅弁屋、そしてこの「いなり弁当」は伊東市民のほとんどの人が食べていると言われる代物なのである。さすがにお土産さんの横の一番絶好の位置にお店を構えていた。その前には休憩所があり、そこでお弁当を食べることも出来る(当然駅のホームでも買える)。早速「いなり弁当」(680円)を一つ、その他に店一押しの「から揚げ」(2ケ380円)と懐かしい「ポリ茶瓶」(130円)(小さなポリ容器にお茶パックが入っており、お湯を入れてくれる)のお茶を購入、休憩所で食べることに。空腹で、すかさず包装紙開き、蓋を開け、いなり寿司を眺める。6ケ入ったいなりがキレイに並べられて食欲をそそる。まずは一口甘めだが上品で良い塩梅、酢飯もグッドである。から揚げを頬張りながら「ポリ茶瓶」のお茶をキャップの底に注ぎ飲む。昔の駅弁にはこの「ポリ」だったと過去を懐かしむ。これに冷凍みかんがあれば旅は万全だったのである。それよりもこのお茶が良いのである。味わってからなんであるが、いまさらながらここは静岡県ではないかと認識し、久しぶりのお茶の旨さに感動し、また、この茶が「ぐり茶」というブランド茶であることを知り、帰りに買って家路にと思わせるものであった。
さて、本日は日帰り旅なので、そんなにゆっくりはしていられない。入念に?スケージュールをチェック、13時には伊東シーサイドスパでひと風呂浴びて、17時には居酒屋「まるたか」で漁師めし「うずわ定食」を食べる予定。また昼は人気店「五味屋」でこちらも漁師めし「ねごめし」を食し、どちらがソウルフルな漁師めしかを判定する計画なのである。お昼まで2時間近くフリーな時間があるので、伊東の街を散策しようと駅を出る。食が優先して、観光の下調べは疎かになり、まったく白紙状態であった。観光所で貰ったマップを頼りに、行き当たりばったりの亀歩き散策に出る。駅を左に見ると、すぐ海で、オレンジビーチなる海水浴場があるのだが、海側は午後にと、伊東のかつての中心街を歩くことにして駅前のいちょう通りをぷらぷらと…。月曜の朝なのだろうか、人気がない。少し歩くと、昼食を取ろうとしている「五味屋」が現れる。まだシャッターが閉まっているが、まさか休みではと不安になるのである。右路地に入るとアーケード風の商店街。マップで確認するとキネマ通りという。東京都の蒲田にもキネマ通り(松竹蒲田撮影所があった)があったななどと思い出しながら、伊東のキネマ通りへ。こちらも戦前あった「キネマホール」という名称の映画館からつけられたらしい。早朝だからか、50メートルぐらいの商店街で開いているのは八百屋さんとお菓子屋さんそれと温泉街の定番?占い屋ぐらいであった。
そのまま下って行くと、松川(旧大川)という川に出るのでそこまで歩こうと、身体じゅう汗まみれのまま向かう。右手の伊東園ホテルを見上げていると、左に橋が現れ、松川が下に流れている。見渡すと結構な風情で、やっと川沿いの温泉街の趣が…。ラヴィエ川良を右に、左に目をやると「ぐり茶 杉山」という看板。これが先ほどいただいた「ぐり茶」を販売している店に出くわしたので店内へ。広々とした空間に、粉茶やパック茶、抹茶、玄米茶等、様々なお茶が並ぶ。「ぐり茶」とは、茶葉を深く蒸して揉む工程を行わない伊豆特産のお茶。普通のお茶に比べ、渋みが抑えられているという。私はこのお茶に魅せられたので、パック茶(三角ティーパック)<1,404円>とインスタントぐり茶(粉)<648円>を購入。その他ソフトクリーム・ぐり茶を使った菓子類も提供している。ソフトは持ち込めないので、店外の券売機で購入し、外のベンチで食すということ。ソフトを食べたかったが、糖尿のオジサンは我慢して店を後にする。
いでゆ橋に引き返すと、右側に何やら重要文化財級の木造建築物が川沿いに聳えているではないか。看板が出ており「東海館」という名の高級割烹旅館風な建物。眺めれば眺めるほど味わいがある。このような旅館、今時営業が出来ているのかと首を傾げるが身体は旅館の方に引き込まれてゆくのである。大川橋に向かい、東海館を舐めるように眺めると、横にも建築的には少し安普請だが十分荘厳な木造建築物が並んでいる。これは入口から探索しなければと大川橋を渡り、裏手(玄関なのだからこちらが表か)の方へ。こちらはケイズハウス(旧旅館いな葉)で、大正末期創業で、現在でもホステルとして、また温泉も営業している。そして東海館はその少し後の昭和3年(1928)に創業。何度か増改築が行われ、戦後の昭和24年に望楼が増築され、70年にわたり旅館として営業していたが平成9年(1997)に廃業。その後、伊東の温泉情緒を伝える街並みを残したいという地元民の要望で、所有者から建物が伊東市に贈られ現在は伊東温泉の観光、文化施設「東海館」になっているという。さすがに東海館は現在形ではないが、これを残した市民また伊東市は立派である。現在では伊東市の象徴といってもよいのではないか。東海館は200円で観覧ができ、土日はお風呂も利用できるのだが、最初は建物に圧倒され入館するのに躊躇ったが、勇気を出して(そんなものいらん)入館。何と本日は市民無料の日(実は誰でも無料)だった。1階(お風呂、喫茶室、中庭)2階(お部屋とギャラリー・伊東の歴史が詳細に分かります)3階(大広間)、望楼とゆったりと観覧し、旅館部屋はまさに溝口、小津、成瀬監督の映像(ショット)に出てくるようであり、広縁の椅子に座っている笠智衆がこちらを見つめる姿や、大広間で芸者を横にして羽目を外す東野栄次郎や加藤大介たちの姿が頭を過り、そんな過ぎ去った人々の<気>がまだ残っているような空間で過去に思いを馳せるオジサンがいたのであった。結構結構なのである。帰りは無料で見せていただいたことに感謝を込め、喫茶室で松川の静かな流れを眺めながら、アイスのティー(500円)とコーヒー(500円)を飲みながら、身体の汗を引くのを待ち、涼をとったのであった。ここは維持は大変だろうが、ズーっと残していただきたい文化財で、伊東を訪れた際は必ず見物すべき一押しスポットと言っても過言ではないだろう。(No.82に続く)
*JRの青春18きっぷ
全国のJR線の普通列車が1回あたり2,410円で1日乗り放題です。1人で5回分または5人までのグループ利用ができる。
祇園 いなり弁当
伊東駅で販売
予約・お問い合わせ:0557-37-2860
予約可
住所:静岡県伊東市広野1-2-15
交通手段
南伊東駅から769m
営業時間:6:30~18:00(お弁当がなくなり次第終了)
日曜営業
無休
ぐり茶杉山「本店」
住所:静岡県伊東市銀座元町7-25
カーナビ検索用専用ダイヤル TEL:0557-36-8733
営業時間:9:00~17:00
ソフトクリーム販売時間:9:00~16:30
定休日:木曜日 駐車場:7台
伊東温泉東海館 (旧木造温泉旅館東海館)
1929(昭和3)年/1938(昭和13)年増築/1949(昭和24)年望楼増築
伊東市指定文化財
静岡県伊東市東松原町12-10
ケイズハウス伊東温泉(旧旅館いな葉)
〒414-0022静岡県伊東市東松原町12-13
TEL0557-35-9444
FAX0557-35-9440
交通アクセスJR 伊東駅より徒歩7分
駐車場無し。近隣の有料駐車場をご利用下さい。尚、駐輪場もございません。
チェックイン15:00 (最終チェックイン:20:00)
チェックアウト11:00
総部屋数19室
館内設備
ラウンジ禁煙ルームコインランドリー(有料)ミニキッチンパソコン利用可
キッチン利用可