No.58 千葉県船橋市「大輦」のソースラーメンを侮るなかれ。

 「ソウルフードと言えるか分からないけど、船橋のソースラーメン、イケルから食べてよ」と友人から言われたのは何年前だっただろうか。
 船橋とは、色々と因縁がある土地なのだが、自分が経営する会社の末期に資金繰りに苦しみ、鉄火場の船橋競馬場に最後の大勝負を賭けに行ったのが最後であるから、もう20年訪れていないことになる。
 勝負は大惨敗で、会社を潰す決断をしたのもこの船橋の地だった。なぜ大勝負が船橋競馬場だったのか。この船橋競馬、当時は南関東四競馬(大井、川崎、浦和)の中でも、騎手が上手(うま)いので、手堅いレースが繰り広げられていてブレ(大荒れ)が少ない、そのため大勝負が掛けやすいという理由からであった。何度か3連単1点勝負で、帯封の札束を獲得し、盗まれないかと恐々(おそるおそる)と帰宅した記憶がある。しかし、弱り目に祟り目、貧すれば鈍す、ではないが、こういう時には勝負勘も鈍り、当たるはずもないのである。ただ、もうお金を借りる先もなくなり、これしか方法がなかったのと、以前資金繰りに窮してしまい、浦和で勝負を賭けた時の宮本輝の小説『優駿』ばりの成功が足を向けさせたのだった。しかし、これも間違っていたのだが、この小説の主人公、それ以来競馬から足を洗ったのであった。私はと思うと、まだ麻薬のようにとり憑かれている。
 今から思えば、それも懐かしい思い出でだったのだが、ふっと考えると、この船橋、競馬場には何度もいったが、勝負に熱くなっただけで、街自体何も知らないのであった。そして今回良い機会なので、ソースラーメンでも食べるついでに街を徘徊してみようと相成った次第である。
 日暮里で京成線に乗り、急行で40分、京成船橋駅に到着。近いのである。最近わが家から京成で柴又帝釈天に行った時も余りの近さに驚いたが、今まで、京成線など意識化になかった自分を恥じたのである。南口から360メートルほど、地図を頼りに目的地に向かう。大きい道路を海側に向かい、2本目の路地、中通り商店街に入る。両側には昼呑みが出来そうな昭和の匂い香るオジサンにぴったりの呑み屋が並ぶ。そのまま真っすぐ行き御殿通りに入ると、右に道祖神社が鎮座し、左に目的地の中華「大輦(だいれん)」の看板が目に入る。赤を基調にした小体な店。開店11時30分までには15分ほど時間があり準備中、周囲を探索することに。店から数分のところにNPO法人が経営するレストランがあり、その前には骨董品、古本、古衣等が陳列しており、しばし、足を止め眺める。一つ100円の小さなお猪口が気に入り五つ購入。また古本が詰まった箱に岩波文庫の『ニーチェの顔』(氷上英廣著)があり、何と新品同様で250円、即購入。この著者私の大学で教鞭をとっていた著名なニーチェ研究家、掘り出し物を見つけ二ヤリとしたのだった。そうこうしているうちに開店時間10分を過ぎてしまい、急ぎ店に戻る。先客は3人カウンターに、4人掛と2人掛け卓があり、2人掛け卓に腰を下ろし店内をしばし眺める。40代ぐらいの中年のご主人が厨房に、その母親か?70代ぐらいの女性が接客している。壁にはやはり多くのマスコミで紹介されたのであろう、有名人の色紙が多く飾っており、狭いながらも人気店なのだなという雰囲気を醸し出している。まずは、ビール(500円)と餃子(350円)を注文。しばし、ビールで喉を潤す。餃子は焼きあがるのが遅く、ビールをもう1本追加すると餃子が到着。追って定番らしいソースラーメン(700円)のハムカツトッピング(200円)と半チャーハン(400円)を注文。餃子は薄皮で、野菜と肉が均一な、よく町中華にあるものだが私の好みの餃子である。店はあっという間に満杯。店の前には行列が…。厨房は一人で切り盛りしているので、かなり待ったがソースラーメンと半チャーハンが到着。下町オジサンの大好きなウスターソースの匂いが鼻に、麵は太目で、キャベツ、もやしやひき肉等オーソドックスな具材が入っている。笑えるのはその上に紅ショウガが乗り、青海苔がかかっていることである。食べているのは、まさにソース焼きそば。スープは薄めのウスターソースに出汁が入って、そんなに癖がなく穏やかな味。来る前に、凡その味をイメージしていたが、それを超えるほど良くできたラーメンである。これは中毒になりそうな味。またハムカツもこのラーメンのアクセントとして効いている(無くても十分良いが)。 
 このソースラーメンは戦後、船橋駅に店を構えていた「花蝶(現在・閉店)」の“ダイヤキ”なるものがルーツらしい。だが伝統の味を受け継ぐ店も少なくなり、幻のラーメンになりかけていた。しかし、2012年地元住民がなくなってしまうのは惜しいと「船橋ソースラーメンプロジェクト」なるものを発足、ソースラーメンを提供するお店を広げていったという(現在ソースラーメンが食べられる店はこの店の他、「拉麺阿修羅」、「麺屋あらき竈の番人」、「麺処ゆきち」、「北海道ラーメン好旭川」、「亀戸らぁ麺零や」など)。
 後のこの設計主義的なところ、ソウルフードとしての問題になるが、オジサンはこれ十分、将来的に船橋のソウルフードになりえると思うし、なるであろう。何故か、確実にこれ中毒性のあるラーメンで、まだこの店でしか食べてないが、何より尖ってなくて優しく、懐に深みを感じさせるからである。因みにここのチャーハンも久しぶりに食べたシンプルなチャーハンで星3つなのである。この店メニューも豊富で何を食べても旨そうなので、今度は一杯やりに行こうと思ったほどである。
 最近にない大食いをしてしまったオジサンは、この後、カロリー消費のために、太宰治とゆかりのある御蔵稲荷神社を通り、意富比(おおひ)神社船橋大神宮-ドエライ由緒ある神社)で参拝して、ららぽーと(元船橋ヘルスセンター)方面へ亀歩きで向かったのであった。ららぽーとに着くと、何と本日船橋競馬の開催日であったのである。そのまま競馬場に突入してしまったか否かはご想像にお任せいたします。

大輦 御殿通店(ダイレン)
中華料理、ラーメン、餃子
お問い合わせ :  047-422-8952
予約可否
住所:千葉県船橋市本町4-20-17
交通手段 
京成本線,JR東日本総武本線,東武野田線船橋駅
京成船橋駅から309m
営業時間
火~土:11:30~14:00 17:00~23:00
日曜日:11:30~16:00
定休日:月曜日
営業時間・定休日は変更となる場合がございますので、ご来店前に店舗にご確認ください。

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「No.58 千葉県船橋市「大輦」のソースラーメンを侮るなかれ。」への2件のフィードバック

  1. 我が家の近所ですが、、、
    近所の人は行かないお店です。
    ふなっしーが広めたのかな?
    前を通ると、確かに客はいるようですけど。
    まさか、ここに取材にいらっしゃるとは
    ビックリしました。
    船橋の人間のソウルフードが何かと、友人と話しましたが、別の名前が出てきます。
    ソースラーメンではないですよ〜。

    1. 貴重なコメントありがとうございます。
      ソースラーメン、そういう意見が圧倒的に多いのも分かります。
      ただ、このラーメン、安っぽくて癖になる味で、私は好きですよ(ウスターソースが好きだからだけかもしれませんが)。もっと地域の人も食べれば良いと思いますが…。
      大の大人が食べるものではないかもしれません。
      それより、あの近くに住んでいるのですか、良い場所ですね。太宰治が顔を出していた神社を
      発見できると思いませんでした。今度お嫌じゃなければ案内してください(こりゃマズイかな)。

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